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図 1 社会学の広がり社会学の広がり 5

応用: 社会調査と問題解決

見えにくい社会の問題を、アンケートや聞き取り、地図を使って目に見える形にし、制度を変える提案につなげる分野です。社会学のどの分野にも共通する「調べて、伝える力」を使います。

アンケートの集計グラフ(数字なし)、録音機を置いた聞き取りの机、色分けされた古い街の地図、市役所の会議室がつながった部屋で、調査の結果をもとに話し合う大学生たち

ひとことで言うと

社会の健康診断

健康診断では、身長や体重、血圧を毎年同じ方法で測るので、自分では気づかない変化が分かります。社会調査も、決まった方法で数えたり、話を聞いたり、地図に記録したりして、社会の見えにくい変化や困りごとを見つけます。

01

アンケート調査: 中高生 1 万 3 千人の答えで分かったこと

家族の介護や世話を日常的に担っている子どもを、ヤングケアラーと呼びます。厚生労働省と文部科学省は 2020 年度、全国の中学 2 年生と全日制高校 2 年生にアンケートを行い、合わせて約 1 万 3 千人が答えました。

「世話をしている家族がいる」と答えたのは、中学 2 年生で 5.7%、全日制高校 2 年生で 4.1% でした。中学 2 年生では、およそ 17 人に 1 人です。世話をしている相手は、どちらの学年でも「きょうだい」が最も多くなっていました。

一方で、自分がヤングケアラーに「あてはまる」と答えた生徒は 2% 前後にとどまり、80% 以上がこの言葉を聞いたことがありませんでした。困りごとに名前がなければ、本人も周りも気づきにくいことが、数字から見えてきたのです。アンケートは、本人も気づいていない問題を浮かび上がらせることがあります。

数で示すと、一人ひとりの困りごとが、社会の問題として見えてきます。

図解中学 2 年生の答え(2020 年度)

世話をする家族

  • 「いる」と答えた人 5.7%
  • およそ 17 人に 1 人
  • 相手は「きょうだい」が最多

自分のことと気づく

  • 「あてはまる」1.8%
  • 「わからない」12.5%
  • 言葉を聞いたことがない 84.2%

02

インタビュー: 150 人が 150 人の人生を聞く

アンケートでは「何人いるか」は分かっても、「なぜそうなったのか」「そのときどう感じたのか」までは分かりません。そこで使うのが、一人ひとりに話を聞くインタビューです。生まれてから今までの暮らしを語ってもらう聞き取りを「生活史」と呼びます。

社会学者の岸政彦さんが編んだ『東京の生活史』(2021 年)は、その大がかりな例です。一般から募った 150 人の聞き手が、東京に暮らす 150 人の語り手から、1 対 1 で人生の話を聞き取りました。編集や解説を加えずに語りをそのまま並べ、1,200 ページにおよぶ本になっています。2022 年には毎日出版文化賞を受けました。

数える調査と聞く調査は、どちらが正しいというものではありません。数で全体の広がりをつかみ、語りで理由や気持ちを理解する。両方を組み合わせると、社会の姿を立体的にとらえられます。東京に続いて、沖縄と大阪でも同じ形の取り組みが進められました。

語りを聞くと、数字の向こうにいる一人ひとりの暮らしが見えてきます。

図解生活史の聞き取りの流れ(例)

  1. 1語り手を探す知り合いの紹介などで、話してくれる人を探す
  2. 2約束をする目的を伝え、録音や公開の範囲に同意をもらう
  3. 3話を聞く生まれた場所から順に、ゆっくり聞く
  4. 4文字に起こす録音を文章にし、語り手に確かめてもらう

03

社会問題の分析: 街を歩いて作った貧困地図

19 世紀のロンドンでは、「市民の 4 人に 1 人が極度の貧困にある」という調査が発表されていました。実業家のチャールズ・ブースは、この数字は大げさだと考え、自分で確かめようと 1886 年に調査を始めました。

調査員たちは、学校から家庭を訪ねる担当者に話を聞き、のちには見回りをする警官に同行して、通りを 1 本ずつ歩きました。そして、住む人の暮らし向きを通りごとに色で塗り分けた地図を作りました。最初の地図は 1889 年に出版されています。

調べた結果、ロンドンの人々の 30.7% が貧困の中で暮らしていることが分かりました。それまで考えられていたより多い数字です。思い込みを確かめるために調べ、データが予想と違えば、それを受け入れる。これは今の社会調査にも通じる姿勢です。

思い込みを確かめるために調べ、結果が予想と違えば、それを受け入れます。

図解ブースの貧困調査の進め方

  1. 1疑問を持つ「4 人に 1 人」は本当か
  2. 2通りを歩く訪問の担当者や警官と街を回る
  3. 3色で分ける暮らし向きを通りごとに塗り分ける
  4. 4数字にする30.7% が貧困の中にいると分かる
ロンドン東部の通りが、赤や青、黒などの色で細かく塗り分けられた古い地図
ブースの「ロンドン貧困地図」のうち、1898〜1899 年の調査にもとづく東部の地区の 1 枚。通りごとの暮らし向きが色で示され、黒や青は貧しい通り、赤や黄色は豊かな通りを表します。写真: Charles Booth(Public domain・Wikimedia Commons)

04

政策の提言: 調査が法律を動かす

ヤングケアラーについては、その後も国の調査研究が毎年のように続けられ、自治体の支援の取り組みも広がりました。2024 年 6 月には子ども・若者育成支援推進法が改正され、ヤングケアラーが、国や自治体が支援に努める対象として法律に明記されました。

ブースの調査も、社会を動かしました。ブースは、すべての高齢者に年金を払う制度を訴えました。イギリスで 1908 年に老齢年金法ができると、ブースは年金の生みの親の一人と見なされるようになりました。

調査の結果を政策の提言にまとめるときは、数字だけでなく、何が足りないのか、だれが何をすればよいのかを具体的に示します。立場によって意見が分かれる問題でも、データを示して話し合いの土台をつくることが、社会学の役目の一つです。

数字と名前があると、問題は社会で話し合えるものになります。

図解調査が制度につながるまで

  1. 1気づく現場で困っている人に出会う
  2. 2数える全国の調査で人数や負担を確かめる
  3. 3名前を広める本人や周りが気づきやすくなる
  4. 4制度にする法律や支援の窓口ができる

05

大学での学び方と、その先の仕事

多くの大学では、調査の方法を学んだあと、社会問題論、社会政策論、福祉社会学などの授業で、調べた結果を問題の解決にどう生かすかを考えます。授業名は大学によって異なります。

調査の力が生きる場面は、身近なところにもあります。たとえば市町村は、5 年ごとに子育て支援の事業計画をつくります。その前に保護者へのアンケート(ニーズ調査)を行い、どのくらいの保育や支援が必要かを見積もる市町村もあります。

学んだことは、国や自治体で統計や政策をつくる仕事に生かせます。調査会社やシンクタンクのリサーチャー、NPO の調査や提言、新聞社やテレビ局の世論調査の担当などの道もあります。ニュースで見る数字をうのみにせず、どう調べた数字かを確かめる力は、どの仕事でも役立ちます。

クイズ社会調査と問題解決クイズ

本文を思い出しながら答えてください。

  1. Q12020 年度の全国調査で、「世話をしている家族がいる」と答えた中学 2 年生の割合は?

  2. Q2ブースの調査で、貧困の中で暮らしていると分かったロンドンの人々の割合は?

  3. Q3『東京の生活史』で、150 人の語り手から話を聞いたのはだれ?

0 / 3 問に回答

高校生のうちに試せること

  • 統計グラフコンクールに応募する

    統計グラフ全国コンクールは各都道府県が実施していて、高校生以上は第 6 部に応募できます。課題は自由なので、自分で集めたデータや国の統計をグラフにまとめましょう。日程は住んでいる都道府県の募集要項で確かめてください。

    統計グラフ全国コンクール募集要領(統計情報研究開発センター)
  • 家族や祖父母に人生の話を聞く

    『東京の生活史』のように、家族や祖父母に、子どものころの暮らしや仕事の話を聞いてみましょう。録音するときは必ず相手の許可をもらい、聞いた話をどこまで人に見せてよいかも確かめてください。

  • 自分の町のアンケート報告書を読む

    住んでいる市町村のサイトで、「市民意識調査」や「ニーズ調査」の報告書を探して読みましょう。だれに、何人に、どんな質問をしたのか、結果がどの計画に使われたのかに注目してください。

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よくある質問

社会調査で、本当に社会は変わるのですか?

調査だけで、すぐに制度が変わるわけではありません。ただ、ヤングケアラーのように、調査で人数や負担が示されたことが、支援を考える話し合いの材料になった例があります。結果を分かりやすく伝える工夫も、社会調査の大切な仕事です。

聞き取りの相手は、どうやって見つけるのですか?

知り合いの紹介や、地域の団体、支援の窓口への相談などを通して探します。話を聞く前に、目的や録音、公開の範囲を説明し、相手の同意をもらいます。

政策の提言は、政治の活動とどう違いますか?

社会学の提言は、特定の政党や立場を応援するものではありません。データと調べ方を公開し、だれがどんな影響を受けているかを示して、話し合いの材料を提供します。