大学カタログ

図 1 生物の広がり生物の広がり 1

細胞と遺伝子

すべての生き物に共通する細胞のしくみと、DNA に書かれた遺伝情報が使われるしくみを学ぶ分野です。酵母の遺伝子をヒトの遺伝子に入れ替える実験も、ウイルスからパパイヤ畑を守った技術も、この単元の知識につながっています。

生物室で顕微鏡をのぞく高校生、長いひもを床に伸ばして DNA の長さを確かめる高校生、南国のパパイヤ畑の写真を見ながら話し合う高校生たち

ひとことで言うと

城も車も、同じ形のブロックで組み立てる

おもちゃのブロックは、同じ形の部品を組み合わせるだけで、城にも車にもなります。生き物も、ゾウリムシからクジラまで、細胞という共通の部品でできていて、DNA という同じ方式の設計図を使っています。部品の規格が同じなので、ヒトの遺伝子を酵母の細胞の中で働かせることもできるのです。

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共通性とエネルギー: ヒトの遺伝子で、酵母が生きられる

生物基礎は、生き物の共通点を探すところから始まります。大腸菌もスギもヒトも、体は細胞でできていて、遺伝情報として DNA を持っています。学習指導要領はこの単元を生物基礎の導入と位置付け、共通性を、生物が起源を共有していることと結びつけて理解するよう求めています。

エネルギーの受け渡しに ATP という物質を使うことも、すべての生き物に共通です。呼吸や光合成でつくられた ATP は、筋肉を縮める、物質を運ぶといった生命活動に使われ、ADP とリン酸に分かれます。ADP は再びエネルギーを受け取って ATP に戻るので、ATP はエネルギーの通貨にたとえられます。

共通性は、遺伝子のレベルでも確かめられています。パンやビールをつくる酵母とヒトは、約 10 億年前に共通の祖先から分かれたと考えられています。2015 年、アメリカのテキサス大学などのチームが実験をしました。酵母が生きるのに欠かせない遺伝子 414 個を、1 つずつヒトの遺伝子に入れ替えたのです。

すると、およそ半分(47%)は、ヒトの遺伝子に入れ替えても酵母が生き続けました。10 億年たっても、遺伝子の働きが受け継がれていたのです。入れ替えやすさは、細胞の中で同じ仕事をする遺伝子のまとまりごとに、似る傾向がありました。

細胞・DNA・ATP は、すべての生き物に共通するしくみです。

図解ATP はくり返し使われる

  1. 1呼吸・光合成糖や光のエネルギーで ATP をつくる
  2. 2ATPエネルギーをたくわえた状態
  3. 3生命活動筋肉の収縮や物質の運搬に使う
  4. 4ADP とリン酸エネルギーを渡したあとの形
丸く明るい視野の中に、紫色に染まった小さな丸い粒がたくさん散らばっている
メチレンブルーで染めて、顕微鏡で 400 倍にして見たパン酵母(出芽酵母)。小さな丸い粒の 1 つ 1 つが細胞です。ヒトと同じく、核を持つ真核生物です。写真: A doubt(CC BY-SA 3.0・Wikimedia Commons)

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DNA と遺伝情報: 1 個の細胞に、2 m の糸がしまわれている

生物基礎の「遺伝子とその働き」では、DNA の二重らせんの構造を学びます。2 本の鎖の塩基は、A と T、G と C が対になります(塩基の相補性)。細胞が分裂する前には、この性質を使って DNA が正確に複製され、分かれた 2 つの細胞に同じ遺伝情報が渡されます。

国立遺伝学研究所によると、ヒトの細胞 1 個に入っている DNA は、つなぐと全長約 2 m になります。DNA は直径 2 nm のとても細い糸です。ヒストンというタンパク質の糸巻きに巻き付いて、直径約 11 nm のヌクレオソームという粒をつくります。

この糸が核の中にどう収まっているかは、今も研究が続いています。1976 年、イギリスのクルーグは、ヌクレオソームが規則正しく折りたたまれて、太さ約 30 nm の線維になると提唱しました。この図は、長く教科書に使われてきました。国立遺伝学研究所の前島一博さんたちは 2012 年、細胞の中では不規則に折りたたまれているとする結果を発表しています。

研究が進むと、教科書の図も書き換わっていきます。高校で学ぶ内容は、完成した知識の一覧ではありません。今も研究者が確かめ続けている、最前線とつながっているのです。

DNA は正確に複製され、分裂した細胞に同じ遺伝情報が渡されます。

図解DNA の細さと長さを、身近な大きさに直す

入力ヒトの細胞 1 個の DNA は、直径 2 nm、全長約 2 m
  1. 12 nm は 0.000000002 m
  2. 2長さ ÷ 太さ = 2 ÷ 0.000000002 = 10 億
  3. 3太さを 1 mm の糸にすると、長さは 1 mm × 10 億
  4. 410 億 mm = 1,000 km
結果太さ 1 mm、長さ 1,000 km の糸を、1 個の細胞の核にしまっているのと同じ割合

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遺伝子の発現: 同じ DNA から、違う細胞ができるわけ

DNA の塩基配列は、まず RNA に写し取られ(転写)、その情報をもとにアミノ酸がつながってタンパク質ができます(翻訳)。学習指導要領は、全ての遺伝子が常に発現しているわけではないことにも触れるよう求めています。すい臓の細胞はインスリンを、赤血球のもとになる細胞はヘモグロビンをつくるように、細胞ごとに働く遺伝子が違います。

では、働きの決まった細胞も、全部の遺伝子を持ち続けているのでしょうか。1962 年、イギリスのガードンは、アフリカツメガエルの卵の核を、オタマジャクシの腸の細胞の核と入れ替えました。この卵は正常なオタマジャクシに育ち、実験をくり返すと、おとなのカエルまで育ちました。腸の細胞の DNA にも、体を一からつくる情報がそろっていたのです。

ガードンの発見は、40 年以上あとの 2006 年に山中伸弥さんが報告した、マウスの細胞を初期化する研究につながりました。2 人は 2012 年のノーベル生理学・医学賞を受けています。

ヒトのタンパク質をつくる遺伝子の数も、研究で変わってきました。文部科学省の資料によると、高校の生物基礎の教科書に載っている数は、会社によって違います。「約 2 万 2000 個」「2 万 500 個」「約 2 万個」です。研究の成果によって数が変わり、どの成果を参照するかで数字が違うからです。

細胞は同じ DNA を持ちながら、必要な遺伝子だけを使い分けています。

図解同じ DNA でも、働く遺伝子が違う

すい臓の細胞

  • インスリンの遺伝子が働く
  • 血糖濃度を下げるホルモンをつくる

赤血球のもとの細胞

  • ヘモグロビンの遺伝子が働く
  • 酸素を運ぶタンパク質をつくる

どちらの細胞も

  • 同じ DNA をすべて持っている
  • 必要な遺伝子だけを転写する
白い背景の上で、茶色のまだら模様のカエルが手足を広げている
アフリカツメガエル(ジンバブエで撮影)。卵が大きく扱いやすいので、発生の研究で長く使われてきました。ガードンが核を入れ替えた実験にも、このカエルが使われました。写真: Brian Gratwicke(CC BY 2.0・Wikimedia Commons)

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遺伝子を扱う技術: ウイルスから、ハワイのパパイヤを守った

生物の「遺伝子を扱う技術」では、DNA を決まった場所で切る制限酵素、遺伝子を細胞に運ぶベクター、DNA を増やす技術を学びます。学習指導要領は、これらが実際にどう使われているかにも触れるよう求めています。食べ物に関わる例が、ハワイのパパイヤです。

アメリカ植物病理学会の資料によると、1992 年、ハワイ島のプナ地区でパパイヤリングスポットウイルスが見つかりました。プナ地区は、ハワイのパパイヤの主な産地です。ウイルスは 2 年ほどで地区中の畑に広がりました。ハワイ州の生のパパイヤの生産量は、1992 年から 1997 年までに約 6 割に落ち込んでいます。

そこで研究者たちは、このウイルスの殻をつくるタンパク質の遺伝子を、パパイヤに組み込みました。ウイルスの遺伝子の一部を持つパパイヤは、ウイルスに強くなったのです。1998 年、このしくみを持つ品種「レインボー」の種が農家に配られ、多くの農家が育て始めました。

このパパイヤは、日本でも食品としての安全性審査を経ました。厚生労働省は 2011 年 12 月、それまで輸入のたびに行っていた検査の命令を解除しています。今では、遺伝子組換えの表示が必要な作物の 1 つになっています。

遺伝子を扱う技術は、病気に強い作物づくりなど、食べ物の分野でも使われています。

図解ウイルスに強いパパイヤができるまで(あらまし)

  1. 1遺伝子を取り出すウイルスの殻のタンパク質の遺伝子
  2. 2運び役につなぐ制限酵素などで切り、ベクターに入れる
  3. 3細胞に入れるパパイヤの細胞に遺伝子を組み込む
  4. 4育てて確かめるウイルスに強い株を選び出す
  5. 5品種にする1998 年、レインボーの種を農家へ

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大学では: 細胞と遺伝子は、生命科学の共通語

多くの大学の理学部や農学部、薬学部、医学部では、1・2 年生で細胞生物学や分子生物学を学びます。高校で学んだ転写や翻訳が、どんなタンパク質によって調節されているかまで深めます。科目の名前や学ぶ時期は、大学によって異なります。

この分野の知識は、医薬品や食品の会社の研究職、病院の臨床検査技師、作物の品種をつくる研究者など、多くの仕事の土台になります。酵母にヒトの遺伝子を入れる研究のように、身近な生き物を使って、ヒトの遺伝子の働きを調べる方法も広がっています。

つまずきやすいのは、複製・転写・翻訳の区別です。「何から何をつくるか」で整理してください。複製は DNA から DNA、転写は DNA から RNA、翻訳は RNA の情報からタンパク質です。この 3 本の矢印を軸に図を描くと、多くの用語のつながりが見えてきます。

クイズ細胞と遺伝子クイズ

本文を思い出しながら答えてください。

  1. Q1酵母の欠かせない遺伝子をヒトの遺伝子に入れ替えた実験で、酵母が生き続けた割合は?

  2. Q2ヒトの細胞 1 個に入っている DNA をつなぐと、全長はおよそどれくらい?

  3. Q3ハワイのパパイヤをウイルスから守るために、パパイヤに組み込まれた遺伝子は?

0 / 3 問に回答

高校生のうちに試せること

  • 「一家に 1 枚 ヒトゲノムマップ」を読む

    文部科学省の学習資料「一家に 1 枚」シリーズには、ヒトゲノムマップがあります。PDF で無料で手に入ります。染色体ごとに、どんな遺伝子が載っているかを探してみましょう。遺伝子の数についての追加資料も読むと、数え方が変わってきた理由が分かります。

    文部科学省「一家に 1 枚」
  • 「今月の分子」でヌクレオソームの形を見る

    PDBj(日本蛋白質構造データバンク)の「今月の分子」では、タンパク質などの形と働きを日本語で読めます。ヌクレオソームの回を開き、DNA がヒストンにどう巻き付いているかを図で確かめましょう。2 m の DNA が核に収まるしくみが、立体的に見えてきます。

    PDBj 入門「今月の分子: ヌクレオソーム」
  • DNA の長さを、ひもで体感する

    1 m のひもを 2 本つなぎ、細胞 1 個分の DNA の長さを床に伸ばしてみましょう。次に、ひもを鉛筆などに巻き付けて、ヒストンに巻かれた DNA を再現します。巻いたものをさらに小さくまとめると、長い DNA が狭い核に収まるしくみが体感できます。

「細胞と遺伝子」に関連するコミュニティ

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よくある質問

生物基礎と生物で、細胞と遺伝子はどこまで学びますか?

生物基礎では、生物の共通性、ATP と代謝のあらまし、DNA の構造と複製、転写と翻訳のあらましを学びます。生物では、呼吸と光合成のしくみ、遺伝子の発現の調節と発生、制限酵素やベクターなど遺伝子を扱う技術まで進みます。学ぶ学年や順番は学校によって異なります。

遺伝子の数は、なぜ教科書によって違うのですか?

どの研究成果を参照するかによって、数が変わるからです。文部科学省は、高校の教科書に「約 2 万 2000 個」「2 万 500 個」「約 2 万個」などの数があると紹介しています。2020 年 6 月時点の国際的なデータベース(Ensembl)では、2 万 438 個とされていました。

酵母とヒトは、なぜ遺伝子を入れ替えられるのですか?

酵母とヒトは、約 10 億年前に共通の祖先から分かれたと考えられています。生きるのに欠かせない遺伝子の多くは、その後も働きが大きく変わらずに受け継がれてきました。2015 年の研究では、細胞の中で同じ仕事をする遺伝子のまとまりごとに、入れ替えやすさが違うことも分かりました。