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図 1 生物の広がり生物の広がり 3

生態系と多様性

溶岩の上に森ができるまでの道すじ、気温で決まる森の種類、混み合うと姿を変えるバッタ、干潟や里山の働き。生き物どうし、そして生き物と環境のつながりを、数えて測って確かめる分野です。

火山を背に溶岩の上の若い松を調べる高校生、干潟で小さな貝を手に取る高校生、田んぼと雑木林の里山で植物を記録する高校生たち

ひとことで言うと

町は、建物を建て替えながら育っていく

何もない埋め立て地に町ができるとき、最初は小さな店や仮設の建物が並びます。人が集まり道路が整うと、やがて大きなビルに建て替わります。生態系も同じで、溶岩の上に最初に入り込んだ草が土をつくり、その土の上で、別の木が育っていきます。

01

植生と遷移: 桜島の溶岩に、森ができるまで

生物基礎の「植生と遷移」では、植物の集まり(植生)が、長い時間をかけて移り変わる遷移を学びます。学習指導要領は、遷移に光や土壌が関わることや、環境によっては森林でなく草原や荒原になることにも触れるよう求めています。

鹿児島県の桜島は、遷移を目で見られる場所です。鹿児島県立博物館によると、桜島は 100〜200 年の周期で大きな噴火をくり返してきました。1914 年の大正大噴火では、およそ 1.34 km³ の溶岩が流れ出ました。溶岩の流れた年代によって、生えている植物が違います。

溶岩のように土がない所から始まる遷移を、一次遷移と呼びます。最初に地衣類やコケ類が生え、次にイタドリやススキなど、厳しい環境に強い植物が入ります。枯れた植物から土ができると、ヤシャブシなどの木が育ちます。ヤシャブシの根には空気中の窒素を取り込む微生物がすみ、栄養の少ない土でも育てるのです。

やがてスダジイやタブノキの森になり、植物の顔ぶれがあまり変わらない極相に至ります。桜島の植生の研究では、溶岩の裸地からスダジイの森までに 600 年ほどかかるという考えが紹介されています。大正溶岩の上には、今もクロマツやイタドリ、ススキが見られます。100 年以上たっても、まだ森の途中なのです。

土のない溶岩の上でも、植物が土をつくりながら、何百年もかけて森へ移り変わります。

図解溶岩から森へ(一次遷移)

  1. 1裸地溶岩が冷えて固まる。土がない
  2. 2地衣類・コケ類岩の表面に最初に生える
  3. 3草原イタドリやススキが入り、土ができる
  4. 4低木・陽樹の林ヤシャブシやクロマツが育つ
  5. 5陰樹の森(極相)タブノキやスダジイの森
ごつごつした黒い溶岩の間に低い木や草が茂り、その中を舗装された遊歩道が通っている
桜島の有村溶岩展望所の遊歩道。1914 年の大正大噴火で流れ出た溶岩の上に、クロマツなどの木や草が育っています。写真: Sakoppi(CC BY 3.0・Wikimedia Commons)

02

バイオーム: 住んでいる町の森を、気温から当てる

その土地の気候に合った植生と、そこにすむ動物などをまとめて、バイオームと呼びます。世界のバイオームは、主に気温と降水量で決まります。日本はどこでも雨が十分に降るので、主に気温の違いで、亜熱帯多雨林、照葉樹林、夏緑樹林、針葉樹林などに分かれます。

気温からバイオームを見積もる方法に、生態学者の吉良竜夫が考えた暖かさの指数があります。植物が育つには、月平均気温で 5℃ 以上が必要とされます。そこで、5℃ を超える月について「月平均気温 − 5」を 1 年分足し合わせます。教科書では、およそ 45〜85 が夏緑樹林、85〜180 が照葉樹林、180〜240 が亜熱帯多雨林の目安です。

気象庁の平年値(1991〜2020 年)で計算してみます。東京は 130.0、鹿児島は 165.4 で照葉樹林、札幌は 76.6 で夏緑樹林の範囲に入ります。照葉樹林はシイやカシなど冬も葉を落とさない木の森、夏緑樹林はブナやミズナラなど冬に葉を落とす木の森です。

盛岡は 86.0 と、わずかに 85 を超えます。ところが、岩手県で見られるのは主に夏緑樹林です。岩手県立総合教育センターの教材は、指数に入っていない冬の寒さの厳しさなども関係すると説明しています。計算と実際がずれる所に、次の問いが生まれます。

日本の森の種類は主に気温で決まり、暖かさの指数で見積もれます。

図解東京の暖かさの指数を計算する

入力気象庁の平年値(1991〜2020 年)。東京の月平均気温は、1 月 5.4℃ から 8 月 26.9℃
  1. 15℃ を超える月は、1〜12 月のすべて
  2. 2各月から 5 を引く: 0.4、1.1、4.4、9.3、13.8、16.9、20.7、21.9、18.3、13.0、7.5、2.7
  3. 312 か月分を足す
  4. 4合計 130.0
結果85〜180 の範囲なので、照葉樹林の目安に入る

03

個体群と生物群集: 混み合うと、姿を変えるバッタ

生物の「生態と環境」では、同じ種の集まり(個体群)と、いろいろな種の集まり(生物群集)を学びます。同じ種の中では、えさや場所をめぐる種内競争が起き、群れをつくる社会性も見られます。違う種の間では、種間競争や、互いに利益を得る相利共生があります。

混み合いで姿まで変わるのが、アフリカなどにすむサバクトビバッタです。国連食糧農業機関(FAO)によると、数が増えて混み合うと、単独で行動する孤独相から、群れで行動する群生相に変わります。成虫の色も、孤独相は茶色、群生相は黄色(若い成虫はピンク色)になります。1921 年までは、2 つは別の種だと考えられていました。

群生相のバッタは大きな群れで移動し、農作物を食べ尽くします。成虫は 1 日に、自分の体重とほぼ同じ約 2 g の植物を食べます。1 km² の群れには約 4,000 万匹がいて、1 日に約 3 万 5,000 人分の食料と同じ量を食べるとされています。

この害虫に、日本の研究者も挑んでいます。国際農林水産業研究センター(国際農研)の前野浩太郎さんは、西アフリカのモーリタニアでサバクトビバッタを研究してきました。その成果で 2022 年度の日本学術振興会賞を受け、研究の日々をつづった『バッタを倒しにアフリカへ』は新書大賞に選ばれています。

同じ種でも、混み合い方によって、姿や行動が大きく変わることがあります。

図解サバクトビバッタの群れは、どれだけ食べる?

入力1 km² の群れに約 4,000 万匹。成虫 1 匹は 1 日に約 2 g の植物を食べる
  1. 14,000 万匹 × 2 g = 8,000 万 g
  2. 28,000 万 g = 80 トン
  3. 3人 1 人が 1 日に食べる量を約 2.3 kg とする(FAO の資料)
  4. 480,000 kg ÷ 2.3 kg ≒ 3 万 5,000
結果1 km² の群れが 1 日に食べる量は、約 3 万 5,000 人分の食料と同じ
乾いた土地の中を通る道路の上空を、たくさんのバッタが飛んでいる
道路の上を横切るサバクトビバッタの群れ(イスラエル南部)。群生相の成虫は、昼間に大きな群れで移動します。写真: Adam Matan(CC BY-SA 3.0・Wikimedia Commons)

04

物質の循環と保全: 干潟と里山は、人と自然の共同作品

生態系の中では、炭素や窒素がめぐっています。生物では、植物が根から吸った窒素を使ってタンパク質などをつくる窒素同化や、空気中の窒素を取り込む窒素固定を学びます。桜島のヤシャブシのように、窒素固定をする微生物と共生する植物は、栄養の少ない土地でもいち早く育ちます。

海辺では、干潟が物質の循環を支えています。愛知県によると、干潟では二枚貝や底にすむ生き物が、陸から流れ込んだ物質を分解し、海をきれいにします。特にアサリなどの二枚貝は、水質を浄化する力が高いことが分かっています。干潟は、多くの生き物が卵を産み、育つ場所でもあります。

陸では、里山が大切な役目を果たしています。環境省によると、二次林や田畑、ため池などからなる里地里山は、国土の約 4 割を占めます。全国の希少種が集中する地域の 5 割以上も、里地里山にあたります。雑木林は、薪や炭を取るために人が手を入れることで保たれてきました。手入れがされなくなると、その質が下がったり、失われたりしています。

学習指導要領は、人間の活動によって生態系が乱され、生物の多様性が損なわれることを扱うよう求めています。一方で、人の手がいつも悪いわけではありません。里山のように、ほどよく手を入れることで保たれる自然もあるのです。

干潟や里山は、物質の循環を支え、多くの生き物のすみかになっています。

図解窒素のめぐり方

  1. 1空気中の窒素そのままでは多くの生物が使えない
  2. 2窒素固定根粒の微生物などが取り込む
  3. 3窒素同化植物がアミノ酸やタンパク質をつくる
  4. 4食べる動物が植物を食べて取り込む
  5. 5分解遺体やふんを微生物が分解する
  6. 6脱窒一部の細菌が窒素に戻して空気へ
潮が引いて、灰色の砂と泥が遠くまで広がる干潟。沖には細いくいが並んでいる
千葉県木更津市の盤洲干潟。潮が引くと、遠くまで砂と泥の干潟が現れます。泥の中には、貝やカニなどがすんでいます。写真: Anonymous Powered(CC BY-SA 3.0・Wikimedia Commons)

05

大学では: 野外に出て、数えて測る

生態学は、多くの大学の理学部や農学部で学べます。授業では、植生の調べ方や個体数の推定、データの統計処理を学び、実習で森や川、海に出かけます。同じ場所を何年も調べ続ける研究もあります。科目の名前や実習の内容は、大学によって異なります。

この分野は、環境調査の会社や、国・自治体の自然保護の仕事、国際農研のような研究機関、博物館などにつながります。サバクトビバッタのように、生態学の知識が食料の問題を解く手がかりになることもあります。

つまずきやすいのは、グラフの読み取りと用語の多さです。遷移やバイオームの図では、横軸と縦軸が何を表すかを最初に確かめてください。用語は、「何が」「何に」影響するかを矢印でつなぐと整理できます。近くの公園で実際の林を見てから図に戻ると、ぐっと分かりやすくなります。

クイズ生態系と多様性クイズ

本文を思い出しながら答えてください。

  1. Q1桜島の溶岩の裸地から、スダジイの森になるまでにかかるとされる時間は?

  2. Q2サバクトビバッタの成虫が 1 日に食べる量は、自分の体重のおよそどれくらい?

  3. Q3東京の暖かさの指数(1991〜2020 年の平年値)は 130.0。目安となるバイオームは?

0 / 3 問に回答

高校生のうちに試せること

  • 自分の町の暖かさの指数を計算する

    気象庁の「過去の気象データ検索」で、住んでいる町に近い地点を選び、平年値の月平均気温を調べましょう。5℃ を超える月だけ「気温 − 5」を足せば、暖かさの指数が出ます。表計算ソフトを使うと簡単です。計算したバイオームと、近くの山や神社の森の木を見比べてください。

    気象庁「過去の気象データ検索」
  • 1 m 四方の植物を、季節ごとに記録する

    校庭の隅や空き地に、ひもで 1 m 四方の枠をつくりましょう。中に生えている植物の種類と、地面を覆っている割合を、春・夏・秋に記録します。草を刈った場所と刈らない場所を比べると、人の手が植生をどう変えるかが見えてきます。土地の持ち主や学校の許可を取ってから始めてください。

  • 近所の草地で、バッタの密度を比べる

    草の高さが違う 2 つの草地で、1 m 四方の枠の中にいるバッタの数を、同じ時間帯に数えましょう。何か所かで数えて平均を出すと、場所による密度の違いが見えてきます。サバクトビバッタの群れの密度(1 km² あたり約 4,000 万匹)を、1 m² あたりに直して比べてみてください。答えは約 40 匹です。

「生態系と多様性」に関連するコミュニティ

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よくある質問

生態系の単元には、どのくらい計算がありますか?

生物基礎では、植生の遷移やバイオーム、生態系のバランスを、主に資料や観察から考えます。生物では、個体群の大きさの変化や物質生産、物質の循環を、数値を使って考える場面が増えます。割合や、かけ算・割り算ができれば、十分に取り組めます。

外来生物も、この単元で学びますか?

学習指導要領は、人間の活動によって生態系が乱され、生物の多様性が損なわれることがあると扱うよう求めています。外来生物は、その例としてよく取り上げられます。このページでは、人の手で保たれてきた里山や干潟の例を中心に紹介しました。

生き物の観察が苦手でも、生態学は学べますか?

生態学には、野外での調査だけでなく、集めたデータを統計やコンピューターで解析する分野もあります。気象庁の気温データから暖かさの指数を計算するように、身近なデータから始められます。外で観察するときは、近くの公園の木や草を見ることから始めると取り組みやすくなります。