大学カタログ

図 1 生物の広がり生物の広がり 4

進化と系統

生命の材料はどこから来たのか、生き物はどのように枝分かれし、姿を変えてきたのかを学ぶ分野です。小惑星の砂、黒くなったガ、指が 1 本になったウマ、丸木舟で海を渡った祖先の話から、進化のしくみが見えてきます。

博物館の展示室で、小さなウマの化石の骨格と現在のウマの骨格を見比べる高校生、木の幹にとまる白と黒のガを観察する高校生、海辺で丸木舟の模型を手に取る高校生たち

ひとことで言うと

方言は、離れて暮らすうちに分かれていく

同じ言葉を話していた人たちも、山や海で隔てられて長く暮らすと、言い方が少しずつ変わり、方言が生まれます。生き物も、DNA の小さな変化が積み重なり、離れた集団どうしが別の種へ分かれていきます。方言の似かたから言葉の歴史をたどるように、DNA の似かたから生き物の家系図(系統樹)を描けます。

01

生命の起源: 小惑星の砂に、RNA の材料があった

生物の最初の単元「生物の進化」では、生命が生まれる前に、簡単な物質からアミノ酸などの有機物ができていく化学進化を学びます。では、生命の材料はどこでできたのでしょうか。地球の上だけでなく、宇宙から届いた可能性も調べられています。生物基礎で学んだ生物の共通性は、すべての生き物が共通の祖先から生まれたことを示しています。その最初の一歩を探る研究です。

手がかりになったのが、小惑星探査機「はやぶさ 2」が 2020 年 12 月に持ち帰った、小惑星リュウグウの粒子です。北海道大学などの研究グループは 2023 年 3 月、この粒子からウラシルを見つけたと発表しました。ウラシルは、すべての地球の生き物の RNA に含まれる塩基です。量は、試料 1 g あたり最大 32 ナノグラム(1 ナノグラムは 10 億分の 1 g)でした。

同じ試料からは、代謝に欠かせないビタミン B3 も見つかっています。アミノ酸などのさまざまな有機物が、リュウグウの粒子に含まれることも報告されています。研究グループは、隕石などの地球の外の物質が運んだ成分が、生命の材料になったという説を強く支持する結果だとしています。

生命の材料になる有機物は、宇宙から運ばれてきた可能性も調べられています。

図解化学進化から生命へ(考えられている道すじ)

  1. 1材料の分子アミノ酸や塩基などの有機物ができる
  2. 2宇宙からも届く隕石などが有機物を運んだ可能性
  3. 3長い鎖になるタンパク質や RNA のような分子へ
  4. 4膜に包まれる自分を複製する最初の細胞へ
暗い展示室で、金色の箱形の本体から黒い板を広げた、はやぶさ 2 の大きな模型が展示されている
展示されている小惑星探査機「はやぶさ 2」の模型。実物は 2020 年 12 月、小惑星リュウグウの粒子を入れたカプセルを地球に届けました。写真: 江戸村のとくぞう(CC BY-SA 4.0・Wikimedia Commons)

02

突然変異と進化のしくみ: 黒くなったガ

生物の「遺伝子の変化と進化の仕組み」では、2 つのしくみを学びます。DNA の塩基配列が変わる突然変異と、減数分裂で遺伝子の組み合わせが変わるしくみです。そのうえで、自然選択や偶然によって、集団の中の遺伝子の割合(遺伝子頻度)が変わることを、進化のしくみとして考えます。

よく知られた例が、イギリスのオオシモフリエダシャクというガです。白っぽい型が多かったのに、19 世紀、工業が盛んになった地域で黒い型が増えました。すすで黒ずんだ木の幹では、黒い型のほうが鳥に見つかりにくかったと考えられています。大気がきれいになった 20 世紀の後半には、黒い型は再び減っていきました。

2016 年、イギリスのリバプール大学などのチームが、黒い型の原因を突き止め、科学誌ネイチャーに発表しました。cortex という遺伝子の中に、動く DNA(トランスポゾン)が入り込む突然変異でした。この変異が起きたのは 1819 年ごろと推定され、産業革命が進んでいた時期と重なります。

遺伝子の組み合わせも、進化の材料です。ヒトの体の細胞には 23 対の染色体があり、減数分裂では、それぞれの対の一方が卵や精子に入ります。1 人の親がつくる卵や精子だけで、組み合わせは約 840 万通りになります。同じ両親から生まれたきょうだいでも、遺伝子の組み合わせが違うのはこのためです。

突然変異や組み合わせの変化が材料になり、自然選択などで集団の遺伝子の割合が変わります。

図解卵や精子の染色体の組み合わせは何通り?

入力ヒトの体の細胞の染色体は 23 対(46 本)。減数分裂で、各対から 1 本ずつ卵や精子に入る
  1. 11 対なら 2 通り
  2. 22 対なら 2 × 2 = 4 通り
  3. 323 対なら 2 の 23 乗
  4. 42²³ = 838 万 8,608
結果1 人の親だけで約 840 万通り。両親の組み合わせなら約 70 兆通り。染色体の乗換えが起きると、さらに増える
白っぽい木の幹に、黒い型のガと、白地に黒い点が散る型のガがとまっている
オオシモフリエダシャクの黒い型(左)と白っぽい型(右)。同じ種でも、遺伝子の違いで色が分かれます。写真: Maarten Sanne(CC BY-SA 3.0・Wikimedia Commons)

03

生物の系統: ウマの指は、なぜ 1 本になったか

生物の「生物の系統と進化」では、生き物の系統(進化の道すじ)を描く方法を学びます。手がかりは、DNA の塩基配列やタンパク質のアミノ酸配列の違いです。学習指導要領は、全ての生き物を細菌・アーキア・真核生物に分ける 3 ドメインを扱うよう求めています。形の変化をたどるには、化石も大切な手がかりです。

フロリダ自然史博物館によると、最も古いウマとされるのはヒラコテリウムです。約 5,500 万〜4,500 万年前にいた、小型犬ほどの動物でした。前足に 4 本、後ろ足に 3 本の指があり、森で木の葉を食べていたと考えられています。約 3,700 万〜3,200 万年前のメソヒップスでは、前足の指が 3 本になります。

約 1,700 万〜1,100 万年前のメリキップスは、指は 3 本のままですが、脚が長くなりました。歯冠の高い歯を持つ、草を食べる最初のウマです。ただし、ウマの進化は 1 本道ではなく、多くの種が枝分かれして絶滅しました。今のウマに近いディノヒップスの化石には、指が 3 本の個体と 1 本の個体が混じっていた例もあります。

ウマの化石は北アメリカで多く見つかりますが、北アメリカのウマは約 1 万年前に絶滅しました。16 世紀にスペイン人がアメリカ大陸に持ち込んだウマは、いわばウマの故郷への里帰りだったのです。

化石と DNA を比べると、生き物が枝分かれしてきた道すじが見えてきます。

図解ウマの足の指の数の移り変わり

  1. 1ヒラコテリウム約 5,500 万年前から。前足の指 4 本
  2. 2メソヒップス約 3,700 万年前から。前足の指 3 本
  3. 3メリキップス約 1,700 万年前から。指 3 本で草を食べる
  4. 4ディノヒップス約 1,300 万年前から。指 3 本と 1 本の個体
  5. 5エクウス約 500 万年前から今まで。指 1 本のひづめ
白い背景に、ウマの仲間 4 種の足の骨が縦に並んでいる。右の 2 本は、太い中指の両側に細い指がある
左から、今のウマ、ディノヒップス、メリキップス、メソヒップスの足の骨(化石の複製を含む)。イタリアのトレント科学博物館の資料です。写真: Matteo De Stefano (MUSE)(CC BY-SA 3.0・Wikimedia Commons)

04

人類の進化: 3 万年前、丸木舟で海を渡った祖先

生物の「人類の系統と進化」では、霊長類の特徴と、人類の進化を学びます。霊長類は、物をつかめる手や、両目で立体的に見る目を持っています。その中で人類は、二本足で立って歩くことが大きな特徴です。

スミソニアン協会によると、最も古い人類の 1 つはサヘラントロプスです。約 700 万〜600 万年前、アフリカのチャドにいました。頭骨の、脊髄が通る穴(大後頭孔)が下側にあり、直立していたと考えられています。1974 年にエチオピアで見つかった「ルーシー」は、約 320 万年前のアウストラロピテクスです。私たちホモ・サピエンスは、約 30 万年前にアフリカで現れました。

ホモ・サピエンスは、やがて世界中に広がり、日本列島にも渡ってきました。国立科学博物館は、3 万数千年前の祖先の航海を再現する実験を行いました。2019 年 7 月、丸木舟に乗った男女 5 人が、星や太陽を頼りに黒潮を越えました。台湾から与那国島まで、225 km を漕ぎ切ったのです。

2025 年に発表された研究では、3 万年前の黒潮は今より速かったらしいことが分かりました。それでも、丸木舟であの海を渡ることはできたと結論づけています。

人類は二足歩行から始まり、約 30 万年前に現れたホモ・サピエンスが世界へ広がりました。

図解チンパンジーとヒトの骨を比べる

チンパンジー

  • 大後頭孔が頭骨の後ろ寄り
  • 骨盤が縦に長い
  • 足の親指が横に開き、物をつかめる
  • 犬歯が大きい

ヒト

  • 大後頭孔が頭骨の真下
  • 骨盤が横に広く、上体を支える
  • 足の親指がほかの指と並ぶ
  • 犬歯が小さい

05

大学では: 進化は、生物学全体をつなぐ考え方

学習指導要領は、生物の最初に進化を学び、その後の単元でも進化の視点を意識させるよう求めています。大学でも、進化の考え方は、分子生物学から生態学まで、生物学のあらゆる分野の土台です。多くの大学の理学部には、進化学や系統分類学、人類学の授業があり、DNA の配列をコンピューターで比べる実習もあります。科目の名前は大学によって異なります。

この分野の知識は、博物館の学芸員、化石や人類の研究者、ゲノムのデータを解析する研究者などの仕事につながります。小惑星の試料の分析や丸木舟の実験のように、生物学の外の分野と力を合わせて、昔の出来事を確かめる研究もあります。

つまずきやすいのは、系統樹の読み方です。「ヒトはチンパンジーから進化した」は誤りで、ヒトとチンパンジーは、共通の祖先から枝分かれした親せきです。系統樹では、枝の分かれ目が共通の祖先を表します。横に並んだ順番ではなく、どこで枝分かれしたかを見てください。

クイズ進化と系統クイズ

本文を思い出しながら答えてください。

  1. Q1オオシモフリエダシャクの黒い型を生んだ突然変異は、いつごろ起きたと推定されている?

  2. Q2最も古いウマとされるヒラコテリウムの、前足の指は何本?

  3. Q32019 年の国立科学博物館の実験で、丸木舟が台湾から与那国島まで漕いだ距離は?

0 / 3 問に回答

高校生のうちに試せること

  • 卵や精子の組み合わせを計算する

    電卓で 2 を 23 回かけて、2 の 23 乗を求めましょう。次に、両親それぞれの組み合わせを掛け合わせて、同じ両親から同じ組み合わせのきょうだいが生まれる確率がどれほど小さいかを考えます。染色体の乗換えが加わると、さらに増えることも確かめてください。

  • 丸木舟の航海の動画を見る

    国立科学博物館の「3 万年前の航海 徹底再現プロジェクト」のサイトでは、2019 年の丸木舟の航海を約 6 分にまとめた動画や、航海の記録を見られます。見えない島の方角をどう決めたのか、黒潮をどう越えたのかに注目して見てみましょう。

    国立科学博物館「3 万年前の航海 徹底再現プロジェクト」
  • 博物館で、ウマや人類の骨格を見比べる

    近くの自然史博物館で、化石や骨格の展示を探しましょう。ウマの足の指の数や、人類の頭骨の大後頭孔の位置など、本文に出てきた特徴を自分の目で確かめてください。入館料は館によって違うので、学生の料金を公式サイトで確かめてから出かけましょう。

「進化と系統」に関連するコミュニティ

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よくある質問

進化は、目の前で起きることもありますか?

あります。オオシモフリエダシャクの黒い型は、19 世紀のイギリスで、工業の発達とともに増えました。殺虫剤が効かない害虫や、薬が効きにくい細菌が増えるのも、自然選択による身近な進化の例です。

化石と DNA、どちらで系統を調べるのですか?

両方を使います。DNA は今生きている生き物どうしの近さを比べるのに強く、化石はすでに絶滅した生き物の形や、いつごろいたかを教えてくれます。化石で形の変化をたどり、DNA で今の種の関係を確かめると、より確かな系統樹が描けます。

人類の進化は、授業でどのくらい学びますか?

生物の「生物の系統と進化」の中で、霊長類の特徴と、人類の系統と進化を、形の特徴と結びつけて学びます。二足歩行に関わる骨のつくりや、脳の大きさの変化などがよく取り上げられます。学ぶ学年や順番は学校によって異なります。