図 3 仕事での生かし方仕事での生かし方 4
スポーツと健康を支える
けがや病気からの回復を助け、選手の体づくりを支え、毎日の食事を整える仕事です。高校の生物で学ぶ呼吸と ATP、筋肉と神経、免疫のしくみが、理学療法士や管理栄養士、トレーナーの判断の根拠になっています。

ひとことで言うと
燃料の使い方を覚え、エンジンを増やす
車は、燃料を燃やしてエンジンを動かします。体の燃料は糖や脂肪で、それを ATP に変える主な場所が、細胞の中のミトコンドリアです。持久力のトレーニングは、燃料の使い方を上手にし、エンジンを増やすことにたとえられます。

01
どんな仕事?: 動く・食べる・回復するを支える
理学療法士は、けがや病気で体が動かしにくくなった人の、座る・立つ・歩くといった基本の動作の回復を助ける国家資格の専門職です。日本理学療法士協会は、理学療法士を「動作の専門家」と紹介しています。病院のほか、介護予防や健康づくり、スポーツの現場でも働いています。
管理栄養士は、病気の人への栄養の指導や、病院・学校などの給食の管理を行う国家資格の専門職です。トレーナーは、選手のけがを防ぎ、体の調子を整えます。日本スポーツ協会の公認アスレティックトレーナーには、4 つの役割があります。けがの予防、体の調子を整えるコンディショニング、安全と健康の管理、医療の資格者に引き継ぐまでの救急対応です。
3 つの仕事に共通するのは、体が動くしくみと、食べた物が力になるしくみを理解していることです。その入り口が、高校の生物で学ぶ呼吸と ATP、筋肉と神経、体の調節と免疫です。
動く・食べる・回復するのしくみを、生物の知識で説明できる仕事です。
図解スポーツと健康の仕事と高校の生物
- 呼吸と ATP持久力をつける練習の組み立て(生物)
- 筋肉と神経歩く練習や筋力を戻す運動(生物)
- 体の調節暑い日の体温と水分の管理(生物基礎)
- 免疫食物アレルギーに配慮した献立(生物基礎)
- 酵素と代謝食べた物がエネルギーになるまで(生物基礎)
- 遺伝子体の能力と遺伝の関係を知る(生物)

02
呼吸と ATP が生きる場面: 持久力のもとは、ミトコンドリアの呼吸
筋肉は、ATP を分解したときのエネルギーで縮みます。ただし、筋肉の中の ATP の量には限りがあります。そこで体は、いくつかの道筋で ATP をつくり続けています。厚生労働省の e-ヘルスネットは、酸素を使わない道筋(クレアチンリン酸系・解糖系)と、酸素を使う有酸素性の道筋に分けて説明しています。
有酸素性の道筋は、主にミトコンドリアの中で進みます。生物で学ぶクエン酸回路と電子伝達系です。糖や脂肪酸を分解し、酸素を使って大量の ATP をつくります。運動の強さや時間によって、2 つの道筋はシーソーのように入れかわりながら ATP を届けています。
持久力のトレーニングをすると、運動中に脂肪酸を使う割合が大きくなり、限られた糖(グリコーゲン)を節約できるようになります。骨格筋のミトコンドリアの量も増えることが、昔から知られています。
ただ、日本体力医学会の解説で紹介された 2021 年の研究では、練習が多すぎると、ミトコンドリア 1 つあたりの呼吸の能力がかえって下がりました。量の指標は増えても、質が落ちることがあるのです。練習と休みのバランスを考えるのも、トレーナーの大事な仕事です。
呼吸のしくみを知ると、練習の強さと休みの意味が分かります。
図解ATP をつくる 3 つの道筋
クレアチンリン酸系
- 酸素を使わない
- 筋肉の ATP をすぐに補う
解糖系
- 酸素を使わない
- 糖を分解して ATP をつくる
- 運動が強いほど糖の割合が増える
有酸素系
- ミトコンドリアで進む
- 糖と脂肪酸を酸素で分解
- 大量の ATP をつくる


03
免疫が生きる場面: 給食の献立と食物アレルギー
消費者庁は、食物アレルギーを、食べ物に含まれるたんぱく質などを体が異物と認識し、自分の体を過剰に防御することで起こる不利益な症状、と説明しています。生物基礎で学ぶ免疫のはたらきが、行きすぎてしまった状態です。
消費者庁は、およそ 3 年ごとに、全国のアレルギーを専門とする医師を対象に調査をしています。2024 年度の報告書では、すぐに症状が出る食物アレルギーの原因は、鶏卵が 26.7% で最も多く、くるみ、牛乳と続きました。7〜17 歳では、くるみが最も多く、牛乳、鶏卵の順でした。
この調査の症例の数や重さをもとに、容器に入った加工食品で表示が義務になる「特定原材料」が決められています。2023 年にくるみが加わり、2026 年 4 月にはカシューナッツが加わりました。今は、えび、かに、くるみ、小麦、そば、卵、乳、落花生、カシューナッツの 9 品目です。
学校や病院の管理栄養士は、こうした決まりと原材料の情報を確かめながら献立を立てます。調査のデータからは、アレルギーの原因になる食物は、年齢によって変わることも読み取れます。
免疫と調査のデータが、毎日の献立の安全を支えています。


04
病院の理学療法士の 1 日(例)
ここでは、病院のリハビリテーション科で働く理学療法士の 1 日の例を紹介します。担当する患者さんの数や時間の配分は、病院によって違います。
体を動かすとき、脳からの命令は脊髄を通り、運動神経から筋肉に伝わります。筋肉は ATP のエネルギーで縮みます。生物で学ぶ、刺激を受け取ってから反応するまでの流れです。理学療法士は、この流れのどこがうまくはたらいていないかを考えながら、関節の動く範囲や筋力、体のバランスを確かめます。
そのうえで、一人ひとりの目標に合わせて運動の計画を立てます。ベッドから起き上がる、立ち上がる、歩く。生活に必要な動作を 1 つずつ取り戻すことが目標です。医師や看護師と、退院の時期や家での暮らし方を話し合うこともあります。
神経から筋肉への流れを考えながら、動作の回復を支えます。
図解病院の理学療法士の 1 日(例)
- 8:30朝の打ち合わせ新しく担当する患者さんを確かめる
- 9:00評価関節の動きや筋力、バランスを測る
- 10:00歩く練習手すりや杖を使った練習を支える
- 12:00昼休み
- 13:00病棟で練習ベッドから立ち上がる動作を練習
- 15:00話し合い医師や看護師と退院の時期を相談
- 16:30記録変化を記録し、次の計画を立てる

05
向いている人と入り方・その先
高校のうちは、生物基礎の代謝と体の調節、生物の呼吸と筋肉・神経を、部活での自分の体と結び付けて学ぶと力になります。栄養の仕事を目指すなら、化学で学ぶ有機化合物も役に立ちます。
理学療法士になるには、大学や専門学校などで 3 年以上学び、国家試験に合格します。2026 年 2 月の第 61 回理学療法士国家試験では、受験者 1 万 2,436 人のうち 1 万 1,156 人が合格しました。合格率は 89.7% です。
管理栄養士になるには、4 年制の管理栄養士の養成施設で学んで国家試験を受けるのが主な道です。管理栄養士として働きながら、日本スポーツ協会と日本栄養士会の公認スポーツ栄養士を目指し、選手の食事を支える道もあります。トレーナーには、体育・スポーツ科学の学部で学ぶ人や、理学療法士などの医療の資格から進む人がいます。
人の体の変化に興味があり、相手の話をよく聞いて、その人に合った方法を考えられる人に向いています。
体のしくみの知識が、回復と体づくりの両方を支えます。
図解理学療法士への道(例)
- 1高校で学ぶ呼吸・筋肉・神経のしくみ
- 2大学・専門学校3 年以上、理学療法を学ぶ
- 3国家試験合格して理学療法士の免許を受ける
- 4病院で働く動作の回復を支える経験を積む
- 5場を広げるスポーツ・介護予防・地域へ
高校生のうちに試せること
練習中の呼吸を記録する
e-ヘルスネットによると、「ハアハア」とリズミカルに呼吸する運動が有酸素運動で、「ゼイゼイ」と肩で息をする運動はそれより強い無酸素運動です。部活や体育で、それぞれの時間を記録して、練習の前半と後半で比べてみましょう。体調の悪い日は無理をしないでください。
なぜ全身持久力が必要なのか(e-ヘルスネット)原材料表示で、特定原材料を探す
家にあるお菓子やパンの袋を 5 つ選び、原材料の欄から特定原材料の 9 品目を探しましょう。「一部に〇〇を含む」という書き方にも注目してください。消費者庁のページで、表示のルールを確かめられます。
食物アレルギー表示に関する情報(消費者庁)理学療法士の仕事の紹介を見る
日本理学療法士協会のサイトでは、理学療法士の仕事や働く場所を、約 3 分の動画などで紹介しています。病院の外での仕事にも注目してみましょう。
理学療法士とは(日本理学療法士協会)スポーツの資格の種類を調べる
日本スポーツ協会のサイトでは、アスレティックトレーナーやスポーツ栄養士など、公認の資格の役割を紹介しています。自分の興味に近い資格を 1 つ選び、どんな知識が必要かを調べてみましょう。
公認スポーツ指導者概要(日本スポーツ協会)
「スポーツと健康を支える」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 111 件から探せます。

摂食嚥下リハビリテーション学分野
新潟大学(新潟県)
歯学部 歯学科 臨床系分野・摂食嚥下リハビリテーション学・井上 誠 分野長
ヒトと動物を対象に、咀嚼と嚥下の機能や神経の仕組みを研究する。
生体機能解析制御科学
広島大学(広島県)
医系科学研究科 保健学分野(理学療法学専攻)・理学療法学・濱田 泰伸 教授
慢性呼吸器疾患、高齢者、身体機能などを研究している。

整形外科リハビリテーション学
新潟大学(新潟県)
医学部 医学科 医学系列(臨床系)・整形外科学・川島 寛之 教授
運動と環境生理学研究室
新潟大学(新潟県)
教育学部 芸術環境講座 保健体育科・運動生理学・環境生理学・天野 達郎
リハビリテーション情動科学
広島大学(広島県)
医系科学研究科 保健学分野(理学療法学専攻)・理学療法学・浦川 将 教授
リハビリテーションにつながる神経科学・神経生理学の基礎研究に取り組んでいる。
生体構造学
広島大学(広島県)
医系科学研究科 保健学分野(理学療法学専攻)・理学療法学
よくある質問
理学療法士とトレーナーは、どう違いますか?
理学療法士は国家資格で、けがや病気で体が動かしにくくなった人の動作の回復を、医療の現場で支えます。日本スポーツ協会の公認アスレティックトレーナーは、スポーツをする人のけがの予防や体の調子を整えることが主な役割で、医療の資格者に引き継ぐまでの救急対応も担います。
管理栄養士と栄養士は、どう違いますか?
栄養士は、都道府県知事の免許を受けて栄養の指導をする資格です。管理栄養士は厚生労働大臣の免許を受ける国家資格で、病気の人への栄養の指導や、多くの人に食事を出す施設の給食の管理など、より専門的な知識と技術が必要な仕事をします(栄養士法)。
運動が得意でなくても、スポーツの仕事に就けますか?
就けます。必要なのは、体のしくみを理解し、相手に合わせて練習や食事を考える力です。高校の生物で学ぶ呼吸や筋肉、免疫の知識は、そのための土台になります。

