図 1 国語の広がり国語の広がり 3
古典を読む
古文と漢文を読み、和歌や物語、故事成語など、昔の言葉の世界を味わう領域です。読み方の決まりを少し知るだけで、1000 年前の文章や中国の古い言葉が、今の日本語とつながって見えてきます。

ひとことで言うと
祖父母の若いころの写真を見るように
祖父母の若いころの写真を見ると、顔つきやしぐさに、今の家族と同じところが見つかります。古典も同じです。「ありがとう」「完璧」「百聞は一見に如かず」など、ふだん使う言葉の昔の姿が、古文や漢文の中に写っています。

01
古文: 「けふ」は「きょう」、「ありがたし」は「めったにない」
古文は、昔の日本語で書かれた文章です。全員が学ぶ「言語文化」では、古典を読む学習に 40〜45 単位時間程度を充てます。選択科目の「古典探究」では、古文と漢文をさらに読み深めます。
最初の関門は、歴史的仮名遣いです。今の仮名遣いを定めた「現代仮名遣い」(1986 年の内閣告示)には、昔の書き方と今の読み方を比べた付表があります。「けふ」は今日(きょう)、「てふ」は蝶(ちょう)と読みます。つまり「てふてふ」は「ちょうちょう」です。
言葉の意味も変わってきました。「ありがたし」は「有り難し」、つまり存在することが難しい、めったにないという意味です。『枕草子』には「ありがたきもの、舅にほめらるる婿」とあります。しゅうとにほめられる婿は、めったにいない、というのです。
めったにないことをしてもらった、という気持ちから、今の「ありがとう」の感謝の意味が生まれました。古語の元の意味を知ると、ふだんの言葉の見え方が変わります。
歴史的仮名遣いと古語の元の意味を知ると、古文がぐっと読みやすくなります。
図解古文の言葉と今の言葉
書き方が違う
- けふ → きょう(今日)
- てふ → ちょう(蝶)
- 買ふ → かう(ふ を う と読む)
意味が違う
- ありがたし → めったにない
- 今は「感謝する」の意味
- 元の意味が今の意味の種になった

02
漢文: 「百聞は一見に如かず」も訓読で読める
漢文は、もともと中国の文語文です。日本では、返り点や送り仮名を付けて、日本語の順番で読む工夫を重ねてきました。これを訓読といいます。9 世紀の初めには、漢字の四隅などに点や線を書き込んで読み方を示す「ヲコト点」も考え出されました。
今の返り点では、レ点はすぐ下の 1 字から上に返り、一・二点は 2 字以上を隔てて上に返ります。たとえば「百聞不如一見」は、「百聞不レ如二一見一」と返り点を付けて、「百聞は一見に如かず」と読みます。
これは、中国の歴史書『漢書』に出てくる、老将軍の趙充国の言葉です。報告を何度聞くより現場に行って見るほうがよいと述べ、自ら出向いて指揮を取りたいと願い出ました。2000 年以上前の将軍の言葉を、私たちは今もことわざとして使っているのです。
漢文は、ふだんの熟語の中にも生きています。学習指導要領の解説は、『論語』の中にも「以上」「未定」「使者」など、今の暮らしでよく使う言葉が多く見られると紹介しています。見慣れた熟語の中に、古い中国の言葉が混じっているのです。
返り点の決まりを知ると、漢文を日本語の順番で読めるようになります。
図解「百聞不レ如二一見一」を読む順番
- 1① 百聞返り点がないので、そのまま読む
- 2② 一見「不」「如」をとばし、一点の字を先に
- 3③ 如二点で「如」に返る
- 4④ 不レ点で「不」に返る


03
物語: 『竹取物語』は、富士山の名前の話で終わる
かぐや姫の話で知られる『竹取物語』は、9 世紀後半から 10 世紀の初めごろに成立したとみられる、作者の分からない物語です。仮名で書かれた最初の物語文学とされ、『源氏物語』の「絵合」の巻でも「物語の出で来はじめのおや」と呼ばれています。
昔話の「かぐや姫」は、多くの場合、姫が月へ帰る場面で終わります。ところが『竹取物語』には続きがあります。姫は月へ帰る前に、帝に手紙と不死の薬を渡していました。帝はそれを燃やすことにし、「いづれの山か天に近き」(どの山が天に近いか)と家来に尋ねます。
選ばれたのは駿河の国の山でした。帝の命令を受けて「士どもあまた具して山へのぼりけるよりなむ、その山を『ふじの山』とは名づけける」。士(つわもの)をたくさん連れて登ったので、「士に富む山」で「ふじの山」と名づけた、というのです。不死の薬を燃やした「不死」の山とも重なる、という説明もあります。
物語は「その煙、いまだ雲の中へ立ちのぼるとぞ、いひ伝へたる」と結ばれます。静岡県富士山世界遺産センターによると、当時の富士山は噴煙を上げる活火山として知られていました。富士山の名前の本当の語源には、ほかにも説があります。物語は、目の前の山の煙に、1 つの由来を語ってみせたのです。
原典を読むと、昔話では省かれた場面や言葉の仕掛けが見えてきます。
図解『竹取物語』の終わり方
- 1姫が月へ帰る帝に手紙と不死の薬を残す
- 2帝が山を尋ねる「どの山が天に近いか」
- 3駿河の国の山へ多くの士が登って薬を燃やす
- 4ふじの山煙は今も雲の中へ、と結ぶ


04
古典の言葉と今: 「完璧」の「璧」は宝の玉
今も使う言葉の多くが、古典から生まれています。中国の古典に書かれた話から生まれた言葉を、故事成語といいます。「完璧」もその 1 つです。
「璧」は、中国で昔から大切にされてきた宝の玉です。紀元前 3 世紀、戦国時代の趙の国に「和氏の璧」という名高い璧がありました。強国の秦は、この璧を 15 の城と交換したいと申し入れてきます。
使いに出た藺相如は、秦の王に城を渡す気がないと見抜き、命がけで璧を取り戻して趙に帰りました。『史記』に記されたこの話から、璧を傷つけずに守り通す「完璧」という言葉が生まれました。「壁(かべ)」ではなく「璧(たま)」と書くのは、このためです。
「杞憂」も故事成語です。中国の古い時代、杞の国の人が、天が崩れ落ちてこないかと心配した、という『列子』の話から生まれました。心配しなくてよいことを、あれこれ心配するという意味です。
故事成語の元の話を知ると、言葉の意味と書き方が一緒に覚えられます。
図解漢文から生まれた今の言葉
- 完璧『史記』趙の藺相如の話
- 杞憂『列子』天が落ちると心配した杞の人
- 百聞は一見に如かず『漢書』老将軍趙充国の言葉
- 温故知新『論語』為政篇の言葉から
- 以上・未定『論語』にも見える熟語


05
大学では: 原文と注釈書で 1 語ずつ確かめる
大学の文学部では、日本の古典は国文学、中国の古典は中国文学や漢文学の授業で読みます。多くの大学では、写本や版本の原文に当たり、昔の注釈書と今の研究を見比べながら、1 語の意味を確かめていきます。
古典の知識は、文学部の外でも生きます。歴史学では古い記録を読み、教育学部では国語の授業づくりを学びます。書道や日本美術、能や歌舞伎の台本を味わうときにも、古文と漢文の決まりが役に立ちます。
文法が苦手でも大丈夫です。学習指導要領の解説も、文語文法だけを学ぶ時間を長く設けるのは望ましくないとし、読むことの中で決まりを身につけるよう求めています。まず現代語訳で話の筋をつかみ、気に入った場面を原文で声に出して読むことから始めてください。
高校生のうちに試せること
昔話の「かぐや姫」と『竹取物語』を比べる
絵本などの昔話の「かぐや姫」と、図書館で借りた『竹取物語』の現代語訳を、結末に注目して読み比べましょう。昔話で省かれた場面を書き出すと、原典を読む面白さが分かります。静岡県富士山世界遺産センターのコラムも参考になります。
富士山世界遺産コラム「かぐや姫の物語」と『竹取物語』(PDF)自分の名前を歴史的仮名遣いで書く
自分や家族の名前、好きな言葉を、歴史的仮名遣いで書いてみましょう。「きょう」は「けふ」、「ちょう」は「てふ」のように、文化庁の「現代仮名遣い」の付表で、昔の書き方を確かめられます。
文化庁「現代仮名遣い」『論語』から今も使う熟語を探す
図書館で『論語』の書き下し文と現代語訳がのった本を借り、今も使う熟語を 10 個探しましょう。解説が挙げる「以上」「未定」「使者」のほかにも、意外な言葉が見つかるはずです。
「古典を読む」に関連するコミュニティ
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よくある質問
古文の単語や文法が、なかなか覚えられません。
単語帳だけで覚えるより、話の中で出会うほうが記憶に残ります。「ありがたし」のように、今の言葉とのつながりや意味の変わり方と一緒に覚えるのも効果があります。分からない場面は現代語訳で筋をつかみ、原文に戻って確かめてください。
漢文は、大学で何の役に立つのですか?
日本の古い記録や文学の多くは、漢文か、漢文の影響を受けた文章で書かれています。学習指導要領の解説も、漢語や漢文訓読の文体は、今も日本語の文章の骨格の一つになっていると説明しています。歴史学や日本文学、中国の文化を学ぶときに直接役立ちます。
