図 1 数学の広がり数学の広がり 2
図形とベクトル
三角形の辺と角、座標、向きと大きさをもつ矢印(ベクトル)を使って、形と位置を計算する分野です。行けない場所までの距離を測る測量から、ゲームのキャラクターの動きや当たり判定まで、身の回りで生きています。

ひとことで言うと
地図アプリのピンと、ナビの矢印
地図アプリでは、自分のいる場所がピンで、行き先への向きが矢印で示されます。位置を数の組で表し、動きを向きと長さで表すのが、図形とベクトルの考え方です。形や動きを数で表すと、コンピュータで計算できるようになります。

01
三角比: 行けない場所までの距離を測る
数学 I の「図形と計量」では、直角三角形の辺の比である三角比(sin・cos・tan)と、正弦定理・余弦定理を学びます。三角形の 1 辺の長さと 2 つの角が分かれば、残りの辺の長さを計算で求められます。
これを使えば、川の向こう岸のように行けない場所までの距離も測れます。下の例のように、こちらの岸を 50 m 歩いて角度を 1 つ測るだけで、川幅が分かります。学習指導要領の解説でも、古代エジプトや江戸時代の測量などを題材に、三角比を使った測量の方法を考える学習が例に挙げられています。
日本の地図づくりも、三角形から始まりました。国土地理院によると、明治時代には距離を正確に測る道具が巻き尺しかありませんでした。そこで、平らな場所で 2 点の間の距離を正確に測り、三角形の内角を経緯儀で測って、三角形をつないで位置を決めていきました。角度を測るには互いが見通せる必要があるため、三角点は山の頂上付近に多く置かれています。
国土地理院が置いた三角点は、全国に約 10 万点あります。いまは人工衛星の電波を受ける測量機なども使って測りますが、三角点は地図づくりや道路・河川の整備の基準として使われ続けています。山に登ったら、山頂で四角い石の標識を探してみてください。
1 辺と 2 つの角が分かれば三角形は 1 つに決まり、残りの長さを計算できます。
図解川幅を三角比で求める
- 1岸に沿って A から 50 m 歩き、B 地点に立つ
- 2B で、A の方向と木 C の方向の間の角を測ると 60 度
- 3角 A が直角の三角形 ABC で、AC = AB × tan 60°
- 4tan 60° は約 1.73 なので、50 × 1.73 を計算する

02
図形と方程式: ゲームの当たり判定は円で考える
数学 II の「図形と方程式」では、点を座標で表し、直線や円を式で表します。この考え方の出発点の 1 つが、フランスのデカルトが 1637 年に『方法序説』の付録として出した『幾何学』です。代数の計算を図形の問題に使う方法を示し、座標を使う幾何学のもとになりました。
この考え方は、ゲームの当たり判定にも使われます。方法の 1 つは、キャラクターや弾を円で囲み、2 つの円が重なっているかを調べることです。2 つの中心の距離が、半径の和より小さければ「当たり」になります。
中心の距離は、2 点間の距離の公式(三平方の定理)で求めます。コンピュータで計算するときは、ルートを計算せずに、距離の 2 乗と半径の和の 2 乗を比べることもできます。画面を描き直すたびにくり返す計算なので、手間を少しでも減らす工夫が生きます。
学習指導要領の解説では、数学 A で座標の考え方を扱うときに、GPS やコンピュータグラフィックスの話題を取り上げる例も示されています。位置を数で表すことが、身近な技術を支えています。
図形を式に直すと、重なりや交わりをコンピュータが判定できるようになります。
図解円で囲んだ当たり判定
- 1中心の距離の 2 乗は (5 − 2)² + (7 − 3)² = 25
- 2距離は 5、半径の和は 1 + 2 = 3 なので、まだ当たっていない
- 3弾 B が (4, 5) に進むと、距離の 2 乗は 4 + 4 = 8
- 48 は半径の和の 2 乗 9 より小さい

03
ベクトル: キャラクターを動かす矢印
数学 C のベクトルは、向きと大きさをもつ量です。矢印で表し、座標では (3, 4) のように成分で書きます。速さと向きをまとめた速度や、物を押す力は、ベクトルで表すのがぴったりです。
ゲームでは、画面を描き直すたびに、キャラクターの位置に速度のベクトルを足して動かします。右へ (1, 0)、上へ (0, 1) と動くキャラクターが右上へ進むと、足したベクトルは (1, 1) です。その長さは √2、約 1.41 なので、そのままでは斜めだけ 4 割ほど速くなってしまいます。そこで、向きは変えずに長さを 1 に直してから使います。
ベクトルの内積を使うと、向きの関係も分かります。キャラクターの向いている方向と、敵がいる方向のベクトルの内積が正なら、2 つの向きの間の角は 90 度より小さく、敵は前のほうにいます。負なら後ろです。見えている敵だけに反応させる動きを、この計算で作れます。
ベクトルは、物理の力や速度の計算、建物にかかる力の計算、AI がデータを扱う計算にも使われます。数学 C で空間のベクトルまで学ぶと、3D の世界の位置や向きも同じように扱えます。
ベクトルの長さと内積が分かると、動きの速さと向きを思いどおりに調整できます。
図解斜めの移動を正しい速さにする
- 1入力を足す右 (1, 0) + 上 (0, 1) = (1, 1)
- 2長さを求める√(1² + 1²) = √2 で約 1.41
- 3長さで割る(1, 1) ÷ 1.41 で約 (0.71, 0.71)
- 4速さをかけるどの向きでも同じ速さで動く

04
複素数平面: かけ算で図形を回す
数学 II で学ぶ複素数は、2 乗すると −1 になる数 i を使って、a + bi と表す数です。数学 C の複素数平面では、a + bi を座標 (a, b) の点として平面に並べます。すると、複素数のかけ算が、図形の回転として見えてきます。
たとえば 3 + 2i に i をかけると、i × i = −1 なので −2 + 3i になります。点 (3, 2) が点 (−2, 3) に移り、原点のまわりにちょうど 90 度回っています。i を 4 回かけると 1 周して、元の点に戻ります。
一般に、cos θ + i sin θ をかけると、点は原点のまわりに θ だけ回ります。この回転を n 回くり返す計算を表すのが、ド・モアブルの定理です。60 度の回転を 6 回くり返すと元に戻り、途中の 6 つの点は正六角形の頂点に並びます。
多くの大学では、1 年生でベクトルや回転の計算を線形代数という科目にまとめて学びます。複素数は、物理学の波や電気回路の交流の計算にも欠かせません。3D のゲームや CG、ロボットの腕の動き、地図や測量の計算を受け持つ仕事に、図形とベクトルの力がそのまま生きます。
高校生のうちに試せること
分度器で校舎の高さを測る
校舎から 20 m 離れて立ち、分度器とおもりをつけた糸で作った道具で、屋上を見上げる角度を測りましょう。角度が 30 度なら、20 × tan 30° で約 11.5 m です。そこに目の高さを足すと、校舎のおよその高さになります。
地理院地図で近くの三角点を探す
国土地理院の「地理院地図」では、地図記号で三角点の位置を確かめられます。学校や家の近くの山や公園にある三角点を探し、実際に石の標識を見に行きましょう。
地理院地図Scratch で当たり判定を作る
無料のプログラミング環境 Scratch で、2 つのスプライトの x 座標と y 座標から中心の距離を計算し、半径の和より小さくなったら音を鳴らす作品を作りましょう。斜めの移動の速さを、ベクトルの長さで直す工夫も試せます。
Scratch
「図形とベクトル」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 48 件から探せます。
ディジタル幾何処理工学研究室
北海道大学(北海道)
電気制御システム

観測地震・火山学
九州大学(福岡県)
固体地球惑星科学・松本 聡 教授
観測データをもとに地震の発生や火山噴火の過程を研究する。
五十嵐研究室
東京大学(東京都)
情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻・ユーザインタフェース・コンピュータグラフィックス・五十嵐 健夫 教授
橋詰研究室
新潟大学(新潟県)
理学部 理学科 数学プログラム・代数幾何学・橋詰 健太 助教
小島研究室
新潟大学(新潟県)
理学部 理学科 数学プログラム・代数幾何学・可換環論・小島 秀雄 教授
多項式で定まる図形を扱い、開代数多様体や多項式環の構造を研究する。

物理ベースコンピュータグラフィックス研究室
筑波大学(茨城県)
情報メディア・藤澤 誠
よくある質問
ベクトルが苦手です。どこから始めればよいですか?
まず方眼紙に矢印を描き、2 本の矢印をつないで足し算を手で確かめてください。成分 (x, y) の計算と矢印の図を行き来できるようになると、内積や空間のベクトルにも進みやすくなります。
ゲームを作る仕事に、数学はどのくらい必要ですか?
キャラクターの移動や当たり判定、カメラの向きには、ベクトルや三角関数、行列の計算が使われます。多くの計算はゲームエンジンが受け持ちますが、思いどおりの動きに調整するには、計算の意味が分かっていることが強みになります。情報系や工学系の学部では、1 年生で線形代数を学ぶ大学が多くあります。