図 1 物理の広がり物理の広がり 2
エネルギーと熱
高さと速さ、熱と温度、気体の圧力と体積を、エネルギーという 1 つの物差しでつなぐ分野です。ジェットコースターの速さ、電気ケトルが沸くまでの時間、山の上でふくらむお菓子の袋、電車のブレーキまで、同じ考え方で計算できます。

ひとことで言うと
お金は形を変えても、合計は同じ
お小遣いを、現金から電子マネー、ポイントへと移しかえても、合計の金額は変わりません。エネルギーも、高さ・速さ・熱・電気と形を変えながら、合計は保たれます。ただし熱に変わった分は、手数料のように取り戻しにくくなります。

01
力学的エネルギー: ジェットコースターの速さは高さで決まる
物理基礎の「力学的エネルギー」では、速さによる運動エネルギー ½mv² と、高さによる位置エネルギー mgh を学びます。摩擦や空気の抵抗がなければ、2 つの和は一定に保たれます。高い所でゆっくり、低い所で速く走るジェットコースターは、この法則のよい例です。
山梨県の富士急ハイランドの「FUJIYAMA」は、1996 年に生まれたコースターです。公式サイトによると、最高部は 79 m、最大落差は 70 m、最高速度は時速 130 km です。70 m 落ちる間に、位置エネルギーがすべて運動エネルギーに変わるとして計算してみます。
½mv² = mgh から、v² = 2 × 9.8 × 70 ≒ 1,372 です。v は秒速約 37 m、時速にすると約 133 kmになり、公式の値にかなり近くなります。少し速めに出たのは、実際には摩擦や空気の抵抗で、エネルギーの一部が熱や音に変わるからです。質量 m は式から消えるので、大人も子どもも同じ速さになります。
宙返り(ループ)では、高さの計算がもっと大事です。レールの内側を走る玉がループの頂上で落ちないためには、頂上で速さが残っていなければなりません。物理の「円運動」と組み合わせると、摩擦がなければ、出発点はループの半径の 2.5 倍以上の高さが必要です。学習指導要領の解説も、レールで軌道の模型を作り、金属球の運動を調べる実験を例に挙げています。
高さが分かれば、摩擦がないときの速さはエネルギー保存の式で計算できます。
図解ループを回りきる出発の高さ
- 1頂上で落ちないには、重力だけで円を回れる速さ v² = gr が要る
- 2エネルギー保存: mgh = mg × 2r + ½mv²
- 3v² = gr を入れると、h = 2r + r/2 = 2.5r


02
熱と温度: 水は温まりにくく、冷めにくい
物理基礎の「熱」では、温度を、物をつくる原子や分子の熱運動の激しさとして捉え直します。温度が下がるほど熱運動は穏やかになり、これ以上は下げられない温度が −273.15℃ です。この温度を 0 K(ケルビン)とする目盛りを絶対温度と呼び、物理や化学の計算の基本になります。
物の温まりやすさは、比熱(比熱容量)で表します。1 g の物を 1 K 上げるのに必要な熱量で、水は約 4.2 J、鉄は約 0.45 J です。水は同じ質量の鉄の約 9 倍の熱を受け取らないと、同じだけ温まりません。夏の昼に砂浜が熱くても海の水が冷たいのは、これが大きな理由の一つです。
海と陸の温まり方の差は、風も生みます。晴れた日の昼は陸が先に温まり、海から陸へ「海風」が吹きます。夜は陸が先に冷え、陸から海へ「陸風」が吹きます。海辺の町で昼と夜に風向きが入れかわるのは、比熱の差が関わっているからです。
比熱が分かると、家電の時間も計算できます。物が受け取る熱量は「質量 × 比熱 × 温度の変化」です。消費電力 1,250 W の電気ケトルで、20℃ の水 1 L を沸かすとします。熱が逃げなければ、約 4 分 30 秒で沸く計算です。実際の時間との差から、逃げた熱の量も分かります。
熱量は「質量 × 比熱 × 温度の変化」で計算できます。
図解電気ケトルで水 1 L を沸かす時間
- 1温度の変化は 100 − 20 = 80 K
- 2熱量 = 1,000 × 4.2 × 80 = 33 万 6,000 J
- 31,250 W は、1 秒に 1,250 J の熱を出す
- 4336,000 ÷ 1,250 ≒ 269 秒

03
気体: 押し縮めると温まり、膨らむと冷える
物理の「気体分子の運動」では、気体の圧力を、たくさんの分子が壁にぶつかる力として説明します。圧力・体積・絶対温度の関係をまとめたのが、理想気体の状態方程式 pV = nRT です。温度が同じなら、圧力が下がるほど体積は大きくなります。
富士山に登ると、ふもとで買ったお菓子の袋がぱんぱんにふくらみます。気象庁の平年値(1991〜2020 年)では、山頂の 8 月の平均の気圧は約 649 hPa です。平地の約 1,013 hPa の 3 分の 2 ほどしかありません。温度が同じなら、袋の中の空気は約 1.6 倍に広がろうとします。山頂は 8 月でも平均 6.4℃ と寒く、その分を入れると約 1.5 倍です。
気体は、熱を出し入れしなくても温度が変わります。自転車の空気入れを続けて押すと、筒の下のほうが温かくなります。空気を急に押し縮めると、ピストンが空気に仕事をして、分子の運動が激しくなるからです(断熱圧縮)。部品がこすれる熱も加わります。反対に、気体が膨らんで外に仕事をすると、温度は下がります(断熱膨張)。
雲ができるのも、断熱膨張のおかげです。上空ほど気圧が低いので、持ち上げられた空気は膨らんで冷えます。雲ができる前の空気は、100 m 上がるごとに約 1℃ 下がります。冷えて水蒸気が水や氷の粒になったものが雲です。物理では、熱・仕事・内部エネルギーの関係を、熱力学第一法則としてまとめます。
気体は、押し縮めると温まり、膨らむと冷えます。
図解押し縮めるときと、膨らむとき
断熱圧縮
- 外から気体に仕事をする
- 分子の運動が激しくなり、温度が上がる
- 例: 空気入れの筒が温かくなる
断熱膨張
- 気体が外に仕事をする
- 分子の運動が穏やかになり、温度が下がる
- 例: 上昇した空気が冷えて雲になる


04
エネルギーの利用: 熱は全部は仕事に戻らない
物理基礎の「エネルギーとその利用」では、水力・化石燃料・原子力・太陽光などのエネルギーが、電気に変わるしくみを学びます。水力発電はダムにためた水の位置エネルギーで、火力発電は燃料を燃やした熱で発電機を回します。原子力発電は、核分裂で生まれる熱を使います。
資源エネルギー庁によると、2024 年度に日本でつくられた電気は 9,911 億 kWh でした。そのうち 67.5% が、化石燃料を燃やす発電です。熱から電気をつくる発電所では、燃料の熱のすべてを電気にはできず、残りは海や空気に捨てられます。熱は全部は仕事に戻らないという性質は、熱力学の大事な法則の一つです。
身近な例がブレーキです。自転車で急ブレーキをかけると、ブレーキの部分が温まります。運動エネルギーが、摩擦で熱に変わったのです。ところが、その熱がひとりでに集まって、自転車がまた走り出すことはありません。物理基礎では、こうした一方通行の変化を「不可逆」と呼びます。
そこで、止まるときの運動エネルギーを、熱にする前に電気として取り戻すのが回生ブレーキです。電車はブレーキのときにモーターを発電機として回し、生まれた電気を架線に戻して、近くを走るほかの電車に使ってもらいます。国土交通省の資料によると、京王電鉄は大手民鉄 16 社で初めて、回生ブレーキなどを全車両に取り入れました。これにより、消費電力を約 45% 減らしています。
熱になったエネルギーは取り戻しにくいので、熱にする前に生かす工夫が大切です。
図解電車が止まるときのエネルギーの行き先
摩擦のブレーキ
- 運動エネルギーが熱になる
- 熱は空気に逃げて、戻らない
回生ブレーキ
- モーターを発電機として回す
- 運動エネルギーが電気になる
- ほかの電車の加速に使われる


05
大学では: 熱力学と統計力学へ
多くの大学の物理学科では、2 年ごろに熱力学、3 年ごろに統計力学を学びます(時期は大学によって異なります)。熱力学は、熱と仕事と温度の関係を、少ない法則にまとめた学問です。統計力学は、ばらばらに動く膨大な数の分子から、温度や圧力を計算で導きます。高校で、分子の衝突から気体の圧力を導いたのが、その入口です。
熱とエネルギーの考え方は、物理学科の外でも広く使われます。機械工学では、エンジンや発電、冷暖房の設計に熱力学が欠かせません。化学では、反応で出入りする熱を計算します。自動車や電機のメーカー、電力会社、鉄道会社などで、エネルギーをむだなく使う技術を開発する仕事につながります。
つまずきやすいのは、熱と温度の区別と、エネルギーの出入りの向きです。問題を解く前に、「どこからどこへ、何 J 移ったか」を表に書き出してみてください。単位を J にそろえると、コースターもケトルも空気入れも、同じエネルギーの計算として見えてきます。
高校生のうちに試せること
ビー玉でループのコースターを作る
配線カバーなど、溝のある細長い材料を曲げてループを作り、ビー玉を転がしましょう。出発の高さを少しずつ変え、回りきれる最低の高さを測って、ループの半径の 2.5 倍と比べます。転がる玉は回転にもエネルギーを使うので、計算より少し高い所が必要になるはずです。
電気ケトルの効率を計算する
家の電気ケトルの消費電力(W)を確かめ、20℃ ぐらいの水 500 mL が沸くまでの時間を、家の人と一緒に測りましょう。計算で必要な熱は約 16 万 8,000 J です。実際の時間と比べて、電気の何 % が水を温めたかを求めます。沸いたお湯や湯気には、さわらないでください。
空気入れで断熱圧縮を感じる
自転車のタイヤに空気入れで続けて空気を入れたあと、筒の下のほうと上のほうに、そっとさわって比べましょう。下のほうが温かければ、押し縮められた空気の温度が上がった証拠です。
山の上でお菓子の袋を観察する
標高の高い山や高原に出かけるとき、開けていないお菓子の袋を持っていき、出発前と着いてからのふくらみ方を写真で比べましょう。スマートフォンに気圧計の機能があれば、気圧の値も記録して、ふくらみ方との関係を考えます。
「エネルギーと熱」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 68 件から探せます。

伝熱制御工学研究室
横浜国立大学(神奈川県)
理工学部 機械・材料・海洋系学科 機械工学教育プログラム・伝熱工学・酒井 清吾 准教授
ふく射伝熱を軸に燃焼炉の加熱や温暖化・気象現象を解析する。
生物・非平衡物理学研究室
九州大学(福岡県)
物性物理学・深井 洋佑 准教授
遺伝情報処理や細胞分化の背後にある物理の仕組みを研究する。

熱流体材料工学
広島大学(広島県)
先進理工系科学研究科 化学工学プログラム・化学工学・荻 崇 教授
ナノ微粒子の合成、微粒子のナノ構造化、エアロゾルプロセスなどを研究している。
赤津研究室
横浜国立大学(神奈川県)
理工学部 数物・電子情報系学科 電子情報システム教育プログラム・電気機械エネルギー変換工学・赤津 観 教授
EVや産業用の高効率なモータと駆動システムを研究する。
小宮・神田研究室
東北大学(宮城県)
工学研究科機械機能創成専攻・伝熱制御
熱工学
熊本大学(熊本県)
工学部 機械数理工学科・熱工学・小糸 康志 教授
ヒートパイプによる熱輸送や、環境負荷を抑える燃焼と熱流動を研究する。
よくある質問
熱と温度は、どう違うのですか?
温度は、物をつくる分子の運動の激しさを表す量です。熱は、温度の違う物の間を移るエネルギーの量で、単位は J です。同じ 100℃ のお湯でも、コップ 1 杯と浴槽いっぱいでは、たくわえている熱の量が大きく違います。
物理基礎だけでも、この分野は学べますか?
力学的エネルギー、熱と温度、比熱、エネルギーとその利用は、物理基礎で学びます。気体の状態方程式や熱力学第一法則は、物理の「気体分子の運動」で学びます。化学でも気体の法則を扱うので、あわせて学ぶと理解が深まります。
エネルギーは保存されるのに、なぜ省エネが必要なのですか?
エネルギーの量はなくなりませんが、使ううちに周りに散らばった熱に変わり、もう一度使うのが難しくなります。熱は全部は仕事に戻らないからです。省エネは、使いやすい形のエネルギーを、熱にして捨てる前に生かす工夫です。

