図 1 物理の広がり物理の広がり 1
力と運動
物の速さがどう変わるかと、その原因になる力の関係を、運動の三法則などの少ない法則で説明する分野です。シートベルトが命を守るわけ、宇宙で体重を量る方法、月が地球に落ちてこない理由まで、同じ法則で計算できます。

ひとことで言うと
荷物を積んだカートは、動かしにくく止めにくい
スーパーのカートは、空なら軽く押すだけですぐ速くなります。荷物を山ほど積むと、同じ力で押してもなかなか速くならず、一度動き出すと止めるのにも力が要ります。力と運動の法則は、このカートの手ごたえを、式で表したものです。

01
慣性の法則: シートベルトが命を守るわけ
物理基礎の最初の単元「運動の表し方」では、速さと加速度を学びます。加速度は、1 秒あたりに速度がどれだけ変わるかを表す量です。授業では、台車の動きを記録タイマーやセンサー、動画で記録し、速さと時間のグラフにまとめます。
続く「運動の法則」の 1 つ目が、慣性の法則です。力が働かなければ、止まっている物は止まり続け、動いている物は同じ速さでまっすぐ進み続けます。急ブレーキで体が前に出るのは、前へ押されたからではありません。車が減速しても、体はそれまでの速さで進み続けようとするからです。
警察庁によると、時速 60 km の車が壁などにぶつかると、高さ 14 m のビルから落ちるのと同じ衝撃を受けます。物理基礎の落下運動の式で確かめると、14 m から落ちた物は、地面に着く直前に時速約 60 km になります。シートベルトは、進み続けようとする体を、車と一緒に止めるための道具です。
警察庁の Web サイト(2026 年 10 月時点)は、後部座席のシートベルトの効果も示しています。着用しないときの致死率は、高速道路で着用時の約 13.9 倍です。学習指導要領の解説は、「動いている物には、進む向きに力が働き続けている」という考えを、生徒がもちやすい誤りに挙げています。力が働かなくても、物は動き続けるのです。
力が働かなければ、動いている物は同じ速さでまっすぐ進み続けます。
図解時速 60 km の衝突を、落ちる高さに直す
- 1時速 60 km は、秒速約 16.7 m
- 2落下運動では、速さ v と落ちた高さ h に v² = 2gh の関係がある
- 3h = 16.7² ÷ (2 × 9.8) を計算する
- 4h ≒ 14.2 m


02
運動の法則: 宇宙で体重を量るには
運動の法則の 2 つ目は、運動方程式 ma = F です。物体に力 F を加えると、質量 m に反比例した加速度 a が生じます。同じ力で押しても、空の台車はすぐ速くなり、おもりを積んだ台車はなかなか速くなりません。質量は、物体の「加速しにくさ」を表す量でもあります。
この式は宇宙でも活躍します。国際宇宙ステーション(ISS)の中は無重量の状態なので、体重計に乗っても目盛りは動きません。NASA によると、ISS の装置 SLAMMD は、宇宙飛行士に決まった大きさの力を加えます。そのときの加速度から、体の質量を計算するのです。m = F ÷ a という高校の式そのものです。
3 つ目は作用反作用の法則です。A が B を押すと、B も A を、同じ大きさで逆向きの力で押し返します。ロケットは、燃料を燃やしたガスを後ろへ勢いよく押し出し、その反作用でガスから前へ押されて進みます。押し返す空気のない宇宙でも加速できるのは、このためです。
解説は、「重い物が軽い物に及ぼす力の方が大きい」という考えも、よくある誤りに挙げています。大型トラックと軽自動車がぶつかっても、互いに及ぼし合う力の大きさは同じです。違うのは加速度で、質量の小さい軽自動車の方が、速さが大きく変わります。
質量は加速しにくさの量で、力の大きさと加速度から求められます。
図解大型トラックと軽自動車が正面からぶつかると
大型トラック
- 受ける力は軽自動車と同じ大きさ
- 質量が大きく、加速度は小さい
- 速さはあまり変わらない
軽自動車
- 受ける力はトラックと同じ大きさ
- 質量が小さく、加速度は大きい
- 速さが大きく変わる


03
運動量と力積: マットが衝撃をやわらげるわけ
物理の「運動量」の単元では、質量 × 速度で表す運動量を学びます。運動量の変化は、力 × 力が働いた時間に等しく、この「力 × 時間」を力積と呼びます。同じ速さの物を止めるなら、止めるのにかける時間が長いほど、加わる力は小さくなります。
走り高跳びの厚いマットや、自転車のヘルメットの内側の発泡材、自動車のエアバッグは、どれも止まるまでの時間を延ばす工夫です。グローブでボールを捕るとき、手を少し引きながら受けると痛くないのも、同じ理由です。
ぶつかり合う物どうしの運動量の合計は、外から力が働かなければ変わりません。これが運動量保存の法則です。ビリヤードで、止まっている球に同じ球を正面から当てると、当てた球はほぼ止まり、当てられた球がほぼ同じ速さで転がり出します。
はね返りの程度は、はね返り係数で表します。国際テニス連盟(ITF)は、テニスボールのはね返り方を規格で決めています。中くらいの速さ(タイプ 2)のボールなら、254 cm から硬い台に落として、135〜147 cm はね返ることが条件です。はね返り係数にすると約 0.73〜0.76 です。スポーツの道具の規格にも、物理の量が使われています。
止まるまでの時間を延ばすと、体に加わる力は小さくなります。
図解60 kg の人が秒速 5 m で落ちて止まるとき(例)
硬い床
- 止まるまで 0.01 秒(仮の値)
- 運動量の変化は 60 × 5 = 300 kg·m/s
- 力は 300 ÷ 0.01 = 3 万 N
厚いマット
- 止まるまで 0.3 秒(仮の値)
- 運動量の変化は同じ 300 kg·m/s
- 力は 300 ÷ 0.3 = 1,000 N

04
円運動と万有引力: 遠心力の正体と、月が落ちてこないわけ
物理の「円運動」では、円を描き続けるには中心向きの力(向心力)が必要だと学びます。車がカーブを曲がると、体が外へ押しつけられるように感じます。これが遠心力です。ただし外から見ると、体は慣性でまっすぐ進もうとしていて、ドアや座席が体を内側へ押して曲げています。遠心力は、回る側から見たときに現れる見かけの力(慣性力)です。
物理の「万有引力」では、地上の物を落とす重力と、月を地球の周りに引き留める力が同じものだと学びます。ニュートンの身近にいたコンデュイットの記録によると、1666 年、ニュートンはリンカンシャーの母のもとにいました。庭で考えごとをしていたとき、リンゴを落とす重力が月まで届いているのではと思いついたといいます。
月までの距離は、地球の半径の約 60 倍です。重力が距離の 2 乗に反比例するなら、月の位置では地上の 3,600 分の 1 になるはずです。月の公転の周期から求めた月の加速度は、この予想とよく合います。月も地球に向かって落ち続けていますが、横向きの速さがあるので、地球の周りを回り続けるのです。
同じ法則で、人工衛星の軌道も計算できます。気象庁によると、静止気象衛星ひまわりは、赤道の上空約 35,800 km を、地球の自転と同じ周期で回っています。地上からは止まって見えるので、いつも同じ範囲の雲を観測し続けられます。
月も、リンゴと同じ重力で地球に引かれています。
図解月の加速度を計算する
- 127.3 日は約 236 万秒
- 2円運動の加速度は 4π² × 距離 ÷ 周期² で求まる
- 34π² × 3.84 × 10⁸ ÷ (2.36 × 10⁶)² ≒ 0.0027 m/s²
- 4地上の 9.8 m/s² の 3,600 分の 1 も 0.0027 m/s²


05
大学では: 力学は乗り物・宇宙・スポーツの土台
多くの大学の理学部や工学部では、1 年生で力学を学びます。高校で学んだ運動方程式を微分方程式として解き、空気の抵抗を受ける運動や惑星の軌道まで計算します。科目の名前や学ぶ時期は、大学によって異なります。
力と運動の考え方は、多くの仕事の土台になります。機械工学では、自動車や鉄道の衝突の安全を設計します。航空宇宙工学では、ロケットの打ち上げや人工衛星の軌道を計算します。スポーツ科学では、選手の体の動きと力を測り、フォームの改善やけがの予防に生かします。
つまずきやすいのは、物体に働く力を正しく見つけるところです。問題を解く前に、注目する物体を 1 つ決めてください。重力と、その物体にふれている物から受ける力だけを、矢印で描きます。「進む向きにも力がある」と思い込んでいないかを確かめると、多くの間違いが防げます。
高校生のうちに試せること
はがきと 10 円玉で慣性を確かめる
プラスチックのコップの口にはがきをのせ、その上に 10 円玉を置きましょう。はがきを指で横にすばやくはじくと、10 円玉はほとんど動かずにコップの中へ落ちます。ゆっくり引くと、10 円玉もはがきと一緒に動きます。力が働く時間で結果が変わることを確かめてください。
紙皿とビー玉で円運動の出口を見る
紙皿の縁を 4 分の 1 ほど切り取り、残った縁に沿ってビー玉を勢いよく転がしましょう。切れ目に来たビー玉は、外側へ飛ぶか、円に沿って曲がり続けるか、まっすぐ進むか。予想を書いてから確かめ、遠心力の正体を考えてみてください。
ボールのはね返り係数を測る
壁にメジャーをはり、ボールを 1 m の高さから落として、はね返った高さをスマートフォンのスロー撮影で読み取りましょう。はね返り係数は「はね返った高さ ÷ 落とした高さ」の平方根です。テニスボールやゴムボールで比べ、ITF の規格(約 0.73〜0.76)とも比べてみてください。
ITF「ITF Approved Tennis Balls 2026」(英語・PDF)静止衛星の高さを計算する
ケプラーの第三法則では、周期の 2 乗が軌道の半径の 3 乗に比例します。月の距離(約 38 万 km)と周期(27.3 日)から、周期 1 日で回る衛星の地球の中心からの距離を計算しましょう。約 4 万 2,000 km から地球の半径約 6,400 km を引き、気象庁が示すひまわりの高さと比べてください。
気象庁「気象衛星観測について」
「力と運動」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 138 件から探せます。
航空宇宙力学分野
京都大学(京都府)
工学研究科航空宇宙工学専攻・航空宇宙力学

矢代研究室(軽構造システム工学分野)
九州大学(福岡県)
航空宇宙工学・矢代 茂樹 教授

花田研究室(宇宙機ダイナミクス分野)
九州大学(福岡県)
航空宇宙工学・花田 俊也 教授
機械力学
広島大学(広島県)
先進理工系科学研究科 機械工学プログラム・機械工学・菊植 亮 教授
ロボティクス、メカトロニクス、ロボット制御などを研究している。
機械宇宙工学専攻 材料機能工学研究室
北海道大学(北海道)
機械情報

生物機械システム研究室
横浜国立大学(神奈川県)
理工学部 機械・材料・海洋系学科 機械工学教育プログラム・機械力学・バイオメカニクス・白石 俊彦 教授
機械の振動制御や振動刺激による組織再生など機械と生物の融合を探る。
よくある質問
遠心力は、本当にある力ですか?
回っている乗り物の中から見ると、外向きに働いているように感じる力で、物理では慣性力の一つとして扱います。外から見ると外向きの力はなく、中心向きの力(向心力)で向きを変えられているだけです。どちらの見方でも、正しく式を立てれば同じ結果になります。
物理基礎と物理で、力と運動はどこまで学びますか?
物理基礎では、直線の運動と速さ・加速度、力のつり合い、運動の三法則、落下運動を学びます。物理では、平面の運動と放物運動、大きさのある物のつり合い、運動量、円運動と単振動、万有引力へ進みます。学ぶ学年や順番は学校によって異なります。
力の問題で、何から手をつければよいですか?
注目する物体を 1 つ決め、重力と、その物体にふれている物から受ける力を矢印で描くところから始めます。力の向きをそろえて式を立て、最後に答えの単位と大きさが自然かを確かめます。慣れるまでは、図を描く時間を惜しまないことが近道です。





