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図 1 物理の広がり物理の広がり 5

原子と現代の物理

光は波であると同時に粒の集まりでもあり、原子の中心には小さく重い原子核があります。高校の物理の最後に学ぶこの分野で、日焼けのしくみから放射線の測り方、原子核のエネルギーまでを説明できるようになります。

理科室で色の違う LED を光らせる高校生、緑に光るシールにスマートフォンの青い光を当てる高校生、ガラスケースの中の古い放射線の測定器をのぞき込む高校生と、窓の外のじゃがいも畑

ひとことで言うと

射的の景品は、玉の重さで倒れ方が変わる

縁日の射的で、軽い玉を何発当てても倒れない景品が、重い玉なら 1 発で倒れることがあります。光も小さな粒の集まりで、1 粒が持つエネルギーは色で決まります。赤い光をいくら当てても起きない変化が、紫外線では起きるのはこのためです。

01

電子と光: 赤い光では日焼けしない理由

物理の「電子と光」の単元では、光が波であると同時に、粒(光子)の集まりでもあることを学びます。光子 1 個のエネルギーは、光の色、つまり波長で決まります。波長が短いほどエネルギーは大きく、赤い光より青い光、青い光より紫外線のほうが大きくなります。

学習指導要領の解説には、箔検電器を使う実験が例に挙がっています。上に金属板をのせて負の電気をため、紫外線を当てると、金属から電子が飛び出して箔が閉じます。これが光電効果です。亜鉛板なら、赤い光をどれほど強くしても箔は閉じません。1905 年、アインシュタインは、光は粒で、1 粒ずつ電子にエネルギーを渡すと考えて、このふしぎを説明しました。

日焼けも同じ考え方で説明できます。環境省の資料によると、肌が赤くなる日焼け(サンバーン)は目に見えない紫外線によるもので、暑さを感じるのは赤外線によるものです。計算してみると、波長 1,000 nm の赤外線の光子 1 個のエネルギーは、波長 300 nm の紫外線の 3 分の 1 ほどです。たくさん浴びれば温かくなりますが、肌の中の分子を変化させるには、1 粒の力が足りないのです。

LED でも、この関係を確かめられます。青い LED は、赤い LED より高い電圧をかけないと光りません。光子 1 個に、より大きなエネルギーを渡す必要があるからです。解説では、光電管や発光ダイオードを使ってプランク定数を求める実験も、例に挙げています。

光子 1 個のエネルギーは色で決まり、波長が短いほど大きくなります。

図解光子 1 個のエネルギーを比べる(計算)

赤外線

  • 波長 1,000 nm で約 1.2 eV
  • 浴びると暖かく感じる

目に見える光

  • 赤 700 nm で約 1.8 eV
  • 紫 400 nm で約 3.1 eV

紫外線(UV-B)

  • 波長 300 nm で約 4.1 eV
  • 肌が赤くなる日焼けの原因
木の台の上に立つ古い箔検電器。丸いガラス窓の中に、細い金属の箔が下がっている
ローマ・ラ・サピエンツァ大学の物理学科にある箔検電器。光電効果の実験では、これと同じしくみの道具に金属板をのせ、紫外線を当てて箔の動きを見ます。写真: Setreset・Marco Angelucci(CC BY-SA 3.0・Wikimedia Commons)

02

原子とスペクトル: 原子の中はすき間だらけ

物理の「原子と原子核」の単元では、原子のつくりを、歴史的な実験の資料をもとに学びます。中心になるのが、ニュージーランド生まれの物理学者ラザフォードの研究室で行われた、α 線を薄い金属のはくに当てる実験です。

ほとんどの α 線は、はくを素通りしました。ところが、ごくまれに、来た方向へはね返るものがありました。ラザフォードは、原子の重さのほとんどとプラスの電気が、中心の小さな芯に集まっていると考えました。1911 年に発表された原子核の考えです。ラザフォードはその前の 1908 年に、放射性物質の研究でノーベル化学賞を受けています。

文部科学省の放射線副読本によると、原子の大きさは約 1 億分の 1 cm、原子核は約 1 兆分の 1 cm です。原子を直径 100 m の球まで広げても、原子核は直径 1 cm ほどです。野球場の真ん中に、ビー玉より小さな粒が 1 つあるようなものです。α 線の多くが素通りしたのは、原子の中がほとんどすき間だったからです。

原子核のまわりの電子は、とびとびのエネルギーしかとれません。電子が高いエネルギーから低いエネルギーに移ると、その差に当たる光子が 1 個出ます。元素ごとに決まった色の光(スペクトル)が出るのはこのためで、高校ではボーアの原子モデルでこのしくみを学びます。

原子の重さのほとんどは、中心の小さな原子核に集まっています。

図解α 線の実験から、原子核が見つかるまで

  1. 1α 線を当てる薄い金属のはくに向けて打ち込む
  2. 2ほとんど素通り原子の中はすき間がほとんど
  3. 3まれにはね返る中心に小さく重い芯がある
  4. 4原子核の発見1911 年にラザフォードが発表
白黒写真。机と棚が並ぶ実験室の中央の小さな台に、ガラス管や配線をつないだ装置が置かれている
20 世紀の初めごろの、ケンブリッジ大学キャベンディッシュ研究所のラザフォードの研究室。中央の小さな台には、原子核を壊して別の原子核に変える実験の装置が置かれています。写真: Science Museum London(CC BY-SA 2.0・Wikimedia Commons)

03

原子核と放射線: 種類によって止め方が違う

物理基礎の「エネルギーとその利用」と物理の「原子核」では、不安定な原子核が放射線を出して、別の原子核に変わることを学びます。α 線はヘリウムの原子核、β 線は原子核から飛び出した電子、γ 線は波長のとても短い電磁波です。

種類によって、物を通り抜ける力(透過力)が違います。α 線は紙 1 枚で止まり、β 線はアルミニウムなどの薄い金属板で止まります。γ 線や X 線は鉛や鉄の厚い板で、電気を持たない中性子線は水やコンクリートのように水素を含む物質で弱めます。種類に合わせて止め方を選ぶのが、放射線を安全に使う基本です。

量を表す単位は、ベクレル(Bq)とシーベルト(Sv)がよく使われます。ベクレルは放射性物質が放射線を出す能力の大きさ、シーベルトは人の体が受けた放射線の影響の度合いです。副読本は、放射線を光にたとえると、放射性物質は電球、放射線を出す能力は光を出す能力にあたると説明しています。

放射線は身の回りにもあります。日本で暮らす人が自然から受ける放射線は、年間平均 2.1 ミリシーベルトです。内訳は食べ物から 0.99、空気中のラドンなどから 0.47、大地から 0.33、宇宙から 0.3 です。関西地方は、放射性物質を比較的多く含む花こう岩が多いため、関東地方より 2〜3 割ほど多くなっています。

放射線は種類によって止め方が違い、人への影響はシーベルトで比べます。

図解放射線の種類と止め方

α 線

  • ヘリウムの原子核の流れ
  • 紙 1 枚で止まる

β 線

  • 原子核から飛び出した電子
  • アルミニウムなどの薄い板で止まる

γ 線・X 線

  • 波長のとても短い電磁波
  • 鉛や鉄の厚い板で弱める
白い背景に置かれた、黒い取っ手の付いた真ちゅうの筒と、細い導線でつながった小さな部品
ガイガーが 1932 年に作った、初期のガイガー・ミュラー計数管。筒の中の気体を放射線が通ると一瞬だけ電流が流れ、その回数を数えて放射線を測ります。写真: Science Museum London(CC BY-SA 2.0・Wikimedia Commons)

04

原子核のエネルギー: E = mc² から、じゃがいもまで

物理の「原子核」では、核分裂や核融合とあわせて、質量とエネルギーは同じものの 2 つの姿だという考え(E = mc²)に触れます。1 g の質量がすべてエネルギーに変わると、0.001 × (3.0 × 10⁸)² で 9 × 10¹³ J です。電気の量にすると、約 2,500 万 kWh にもなります。

原子力発電では、ウラン 235 の原子核が分裂するときに、質量がおよそ 1,000 分の 1 だけ減り、その分が大きな熱になります。物理基礎では、原子力の利用とあわせて、安全性の確保や放射性廃棄物の処理、廃炉などの課題も学びます。

放射線そのものも、医療・工業・農業で使われています。日本人が医療の検査などで受ける放射線は年間平均約 2.6 ミリシーベルトで、自然から受ける量と同じくらいです。X 線写真は、X 線が目に見える光より物を通り抜けやすい性質を利用しています。

農業の例が、北海道士幌町のじゃがいもです。食品安全委員会の資料によると、芽が出るのを止めるガンマ線の照射が、1972 年に許可されました。1974 年には、士幌町の農協で商業照射が始まっています。2012 年の資料では、じゃがいもが市場に少なくなる 3 月下旬から 4 月に出荷される一部に、照射が行われています。照射しても、検知できるほどの放射能は生じないとされています。

質量はエネルギーに変わり、放射線は医療から農業まで使われています。

図解原子核と放射線の使い道

原子核と放射線
  • 医療X 線検査・CT・放射線治療
  • 農業じゃがいもの芽止め・品種改良
  • 工業新しい製品の開発
  • 発電核分裂の熱で電気をつくる

05

大学では: 量子力学と原子核物理、放射線の仕事

高校の物理の最後には、素粒子の存在にも触れます。原子核をつくる陽子や中性子も、さらに小さな粒からできています。学習指導要領の解説は、暗黒物質の研究やスピントロニクス、核融合発電などを、物理学が築く未来の例に挙げています。

多くの大学では、2〜3 年で量子力学を学び、光子や電子のふるまいを方程式で扱います。その先に、原子核物理学や放射線計測、医学物理などの授業や研究室があります。科目の名前や学ぶ時期は大学によって異なります。

仕事では、病院で X 線検査や CT、放射線治療を担う診療放射線技師が身近な例です。国家試験に合格して免許を得る仕事です。原子力や放射線の研究機関や、医療機器のメーカーで、測定器や治療装置を開発する道もあります。

つまずきやすいのは、目に見えない光子や原子核を、式だけで考えるところです。まず、光子 1 個のエネルギーを色ごとに計算し、日焼けや LED のような身近な現象と結びつけてみてください。数字で比べると、原子の世界の大きさの違いがつかめます。

クイズ原子と現代の物理クイズ

本文を思い出しながら答えてください。

  1. Q1肌が赤くなる日焼け(サンバーン)を起こすのは、太陽の光のうちどれ?

  2. Q2紙 1 枚で止めることができる放射線は?

  3. Q3日本で暮らす人が自然から受ける放射線の量は、年間平均でおよそ何ミリシーベルト?

0 / 3 問に回答

高校生のうちに試せること

  • 蓄光シールに色の違う光を当てる

    暗い部屋で、緑色に光る蓄光シールに、スマートフォンの画面を真っ赤にした光と、真っ青にした光を同じ時間ずつ当てて比べましょう。青い光のあとは光り、赤い光のあとはほとんど光らないはずです。緑の光を出すのに、赤い光の光子 1 個のエネルギーでは足りないからです。

  • 光子のエネルギーを計算し、紫外線の予報を見る

    E(eV) ≒ 1,240 ÷ 波長(nm) を使い、赤(700 nm)・青(450 nm)・紫外線(300 nm)の光子のエネルギーを計算しましょう。気象庁の紫外線情報では、日焼けにかかわる紫外線の強さ(UV インデックス)の予測を 1 時間ごとの分布図で見られます。

    気象庁「紫外線情報(分布図)」
  • 放射線副読本で、体の中のカリウム 40 を計算する

    文部科学省の「中学生・高校生のための放射線副読本」には、放射線の種類や単位、身の回りの放射線が図でまとめられています。カリウムは体重の約 0.2%、そのうち 0.012% がカリウム 40 です。自分の体重から、体の中のカリウム 40 の重さを計算しましょう(体重 60 kg なら約 0.014 g)。

    文部科学省「放射線副読本(令和 6 年改訂)」

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よくある質問

光は結局、波なのですか、粒なのですか?

どちらの性質も持っています。干渉や回折では波として、光電効果では粒としてふるまいます。電子も同じで、物理では電子線回折で電子の波の性質を学びます。大学の量子力学では、2 つの性質を 1 つの理論で扱います。

放射線を浴びた人や物は、放射線を出すようになりますか?

なりません。文部科学省の放射線副読本によると、人が放射線を受けても放射線が体にとどまることはなく、その人が放射線を出すようになることもありません。光を浴びた人が光を出すようにならないのと同じです。

計算が苦手でも、原子の単元は分かりますか?

原子の単元の計算は、E = hc/λ のように、かけ算と割り算でできるものが中心です。10 の何乗という、とても大きな数や小さな数の扱いに慣れておくと楽になります。まず光子 1 個のエネルギーを色ごとに計算して、数の大きさに慣れてみてください。