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図 1 世界史の広がり世界史の広がり 5

暮らしから見る世界史

食べ物や飲み物、服、天気、ニュースなど、身の回りのことから世界の歴史をたどる分野です。夕食のポテトサラダ、朝の一杯のお茶、寝るときのパジャマにも、長い旅の歴史があります。

ジャガイモやトマト、唐辛子が並ぶ食卓、湯気の立つお茶とコーヒー、たたまれたパジャマ、噴煙を上げる火山を、世界地図の上でつなぐ高校生たち

ひとことで言うと

冷蔵庫の中は「旅の記録」

冷蔵庫を開けると、ジャガイモ、トマト、ケチャップ、お茶のペットボトルが並んでいます。一つ一つに、どこで生まれ、どの船で、いつ日本に来たのかという旅の記録があります。その記録を読み解くと、世界史が台所から始まります。

01

食の来歴: トマトもジャガイモも、もとはアメリカ大陸の作物

世界史探究は、最初に「世界史へのまなざし」で、身の回りのことから世界の歴史を考えます。解説は、衣食住や家族、教育、余暇などを例に挙げています。そして、「一地域の食べ物が世界で広く食されるまでには、どのような経緯があったのだろうか」という問いの立て方も示しています。

ジャガイモは、南アメリカのアンデスの高地、ペルーとボリビアにまたがるティティカカ湖のまわりで生まれました。1570 年にメキシコからスペインに入り、ヨーロッパの北の国々へ広がります。北アメリカへは 1621 年に、ヨーロッパから伝わりました。同じアメリカ大陸の作物なのに、大西洋を往復してから北アメリカに届いたのです。

日本には、1601 年にジャカトラ(今のジャカルタ)からオランダの船で長崎の平戸に運ばれたのが最初とされ、「ジャガタライモ」と呼ばれました。これが縮まって「ジャガイモ」になります。トマトの名前は、アステカの人々の言葉「トマトル」から来ています。トマトは 16 世紀にイタリアに入りましたが、初めは観賞用で、食べるようになったのは 18 世紀の中ごろです。

トウガラシも、熱帯アメリカが原産の作物です。1493 年にコロンブスがスペインに持ち帰り、アジアにも広がりました。日本では、渡ってきた当初はコショウの仲間だと考えられていたらしく、今でもトウガラシを「コショウ」と呼ぶ地方があります。トマトも、18 世紀の初めに貝原益軒が著した『大和本草』に、「唐ガキ」の名で記されています。

1 皿の料理にも、海を渡った作物の長い旅が詰まっています。

図解ジャガイモの長い旅

  1. 1アンデスティティカカ湖のまわりで生まれる
  2. 21570 年 スペインメキシコからヨーロッパへ
  3. 31601 年 日本ジャカトラからオランダ船で平戸へ
  4. 41621 年 北米ヨーロッパから北アメリカへ
織物の上に並べられた、紫や茶色、細長いものや丸いものなど、形も色もさまざまなジャガイモ
アンデスで育てられている在来のジャガイモ。ジャガイモのふるさとでは、色や形の違うさまざまな品種が育てられています。写真: Edgar Amador Espinoza M.(CC BY-SA 3.0・Wikimedia Commons)

02

衣の来歴: パジャマは、インドのゆったりしたズボンから

衣服にも、世界をめぐる旅があります。パジャマの語源は、ペルシア語やウルドゥー語で「足」と「衣服」を合わせた言葉です。ゆったりした足首までのズボンを指し、インドやペルシアの人々がはいていました。

1870 年代に、イギリスの人々がインドからヨーロッパへ持ち帰り、初めは男性の寝巻になりました。20 世紀の初めには女性も着るようになり、寝巻の定番になります。日本の辞書は、1920 年の小説に出てくる「パジャマ」を、この言葉の早い例として載せています。

イギリスがインドを支配していた時代の行き来が、私たちの寝るときの服に残っているのです。解説も、ある地域の服装の特徴が、どのような経緯でつくられたのかを問う学習を例に挙げています。

ふだん着る服の名前にも、地域どうしの支配と交流の歴史が残っています。

図解パジャマの旅

  1. 1インド・ペルシアゆったりした足首までのズボン
  2. 21870 年代イギリスの人々がヨーロッパへ
  3. 320 世紀の初め女性も着る寝巻の定番に
  4. 41920 年 日本小説に「パジャマ」が登場

03

飲み物の道: 「チャ」と「ティー」で分かる、お茶が来た 2 つのルート

お茶を、日本語では「チャ」、英語では「ティー」と呼びます。言語学の世界地図『WALS』は、230 の言語の茶の呼び名を調べています。そのうち 110 は中国語の cha 系、84 は中国南部の閩南語(びんなんご)の te 系でした。どちらも中国から来た言葉ですが、通ってきた道が違うのです。

ヨーロッパに茶を多く運んだオランダの商人は、福建のアモイ(厦門)の人々と取り引きしていました。そこで te 系の thee という呼び名が、ヨーロッパの多くの地域に広がります。一方、16 世紀に初めて茶をヨーロッパに運んだポルトガルはマカオを通ったので、ポルトガル語は chá です。陸路で茶が伝わった東ヨーロッパやアジアの言葉には、chai のような呼び名が多く見られます。

コーヒーにも長い旅があります。ユネスコは 2013 年、「トルコのコーヒーの文化と伝統」を無形文化遺産に登録しました。細かく挽いた豆と水と砂糖を小さなポットでじっくり煮出し、カップの底に残った粉で占いをすることもあります。飲み物の呼び名やいれ方を比べると、人と物が通った道が見えてくるのです。

言葉の形は、物が運ばれた道を記録しています。

図解茶の呼び名の 2 つの系統

cha の系統

  • 230 言語のうち 110
  • マカオ経由や陸の道で伝わる
  • 日本語 チャ・ポルトガル語 chá

te の系統

  • 230 言語のうち 84
  • 福建の閩南語 te から
  • オランダ語 thee・英語 tea
ガラスケースの中に、長い取っ手の付いた小さなポットや、模様の入ったカップと受け皿、金属の盆が並んでいる
トルコ南部アダナのコーヒーハウス博物館に並ぶ、コーヒー用の小さなポット(ジェズヴェ)とカップ。トルコのコーヒーの文化は、2013 年にユネスコの無形文化遺産に登録されました。写真: Julvsel(CC BY-SA 4.0・Wikimedia Commons)

04

地球環境と人類: 1816 年、夏なのに寒かったヨーロッパ

世界史へのまなざしでは、地球環境と人類の歴史のつながりも考えます。解説は、「一つの生物種である現生人類が全世界に広がったのはなぜだろうか」といった問いを例に挙げています。地球科学や生物学、考古学の成果も生かすよう求めています。地球や生命の長い歴史と比べると、人類が登場してからの時間はごく短いことにも気付くよう示しています。

1815 年 4 月、インドネシアのスンバワ島にあるタンボラ山が大噴火しました。世界大百科事典は、歴史に記録された世界最大の噴火としています。爆発音は 1750 km 先まで聞こえ、500 km 離れた島でも、火山灰のために 3 日間暗闇が続きました。翌年には、火山灰が原因とみられる異常な低温が世界の各地で起こります。

1816 年の夏、メアリー・シェリーたちは、スイスのジュネーブの近くに滞在していました。雨と寒さで家にこもり、怪奇な物語を書き比べることにします。このとき書き始めたのが、のちの小説『フランケンシュタイン』(1818 年刊)です。アメリカのリンダ・ホール図書館は、この悪天候を前年のタンボラ山の噴火のためだと説明しています。インドネシアの火山が、イギリスの小説の誕生に関わっていたのかもしれません。

自然の出来事は、遠く離れた地域の暮らしや文化にも影響します。

図解火山から小説へ

  1. 11815 年 4 月タンボラ山が大噴火
  2. 2噴火のあと世界の各地で異常な夕焼け
  3. 31816 年世界の各地で異常な低温
  4. 41816 年の夏ジュネーブで物語の書き比べ
  5. 51818 年『フランケンシュタイン』刊行
宇宙から見下ろした、緑の山の頂上にぽっかりと開いた巨大な円形のくぼみ
国際宇宙ステーションから撮影したタンボラ山の山頂。1815 年の噴火でできた、直径約 6 km の大きなくぼみ(カルデラ)が見えます。写真: NASA(Public domain・Wikimedia Commons)

05

ニュースの背景: 夏に時計を進める「夏時間」は、戦争の時代から

ニュースの出来事も、歴史をたどると意味が深く分かります。たとえば、夏に時計の針を 1 時間進める夏時間(サマータイム)です。1908 年、イギリスのウィレットは、早く起きて早く寝れば明かりの節約になり、健康にもよいとして法案を出しましたが、議会で否決されました。広まるきっかけは第一次世界大戦で、1916 年に、燃料などを節約するためにドイツやイギリスなどが次々に取り入れました。

日本でも 1948 年から 1951 年まで行われましたが、暮らしに合わないとして歓迎されず、廃止されました。2018 年には、ヨーロッパ連合(EU)の欧州委員長が、健康への悪い影響などを理由に、夏時間をやめることを提案してニュースになりました。総力戦の時代に始まったしくみが、100 年後の議論につながっているのです。

つまずきやすいのは、「昔の話」と「今の暮らし」を別々のものと考えてしまうことです。食べ物の原産地、服や言葉の由来、ニュースの話題に、「いつ、どこから来たのか」と問いを立ててみてください。教科書の出来事と自分がつながります。

大学では、歴史学のほかに、文化人類学や食文化の研究、環境史、地域研究などで、この続きを学べます。こうした分野では、古い料理の本や旅行記、気候の記録などを読み比べ、人と自然と物の歴史を確かめていきます。

クイズ暮らしの世界史クイズ

本文を思い出しながら答えてください。

  1. Q1ジャガイモが生まれたのは、どこの地域?

  2. Q2英語の tea という呼び名は、中国のどこの言葉から広まった?

  3. Q3『フランケンシュタイン』が書き始められた 1816 年の夏が寒かったのは、何の影響とされる?

0 / 3 問に回答

高校生のうちに試せること

  • 世界地図で茶の呼び名を調べる

    言語学の世界地図『WALS Online』の「Tea」の地図では、世界の言語の茶の呼び名が cha 系か te 系かを、色分けで見られます。留学したい国や、好きな国の言葉の呼び名を探してみましょう。

    WALS Online「Tea」(英語)
  • 夕食の食材の来た道を地図にする

    1 回の夕食に使われた食材を書き出し、百科事典で原産地を調べて世界地図に線を引きましょう。ジャガイモやトマト、トウガラシはアメリカ大陸、コショウはインドというように、1 皿の中に世界が集まっていることが分かります。

  • ユネスコの無形文化遺産で食の文化を探す

    ユネスコの無形文化遺産のリストには、食や飲み物の文化も登録されています。日本の「和食」と、トルコのコーヒーの文化の説明を読み比べてみましょう。

    ユネスコ無形文化遺産のリスト(英語)

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よくある質問

身近なことから調べても、ちゃんとした世界史になりますか?

なります。学習指導要領の解説も、衣食住や家族、教育、余暇などの身の回りのことから、世界の歴史とのつながりを考える学習を示しています。大切なのは、百科事典や公的な資料で事実を確かめ、「いつ、どこから、なぜ」を説明することです。

ニュースの背景を知るには、何から始めればいいですか?

ニュースに出てきた地名を地図帳で探し、その場所が教科書のどの時代に出てくるかを調べることから始めてください。自分の年表に今日のニュースを書き足していくと、歴史と今がつながっていきます。