図 1 数学の広がり数学の広がり 1
代数学
数の性質や、ものを動かす「操作」のしくみを、文字と式で調べる分野です。素数の研究はインターネットの暗号を支え、ルービックキューブの謎も「群」の考え方で解けます。

ひとことで言うと
ルールを決めて、何が必ず起きるかを確かめる
将棋は、駒の動かし方という少ないルールから、数えきれない展開が生まれます。代数学も、「足す」「かける」「回す」といった操作のルールだけを決めて、そこから必ず成り立つ性質を見つけていく分野です。

01
整数と素数: かけ算は簡単、分解は難しい
素数は、1 とその数自身でしか割り切れない 2 以上の整数です。2、3、5、7、11…と続き、100 までに 25 個あります。紀元前 300 年ごろに書かれたユークリッドの『原論』には、素数が限りなくあることの証明がすでに載っています。
7 × 13 = 91 はすぐ計算できますが、8051 を素数のかけ算に分けるのは手間がかかります。この「かけ算は簡単、分解は難しい」という差を使ったのが、1977 年に考えられた RSA 暗号です。いまは 600 桁以上の数が使われ、現実的な時間では分解できないと考えられています。
ただし、分解の近道が見つかれば暗号は破られます。下の例のような工夫が通用しないよう、暗号に使う素数は慎重に選ばれます。素数の性質を深く知ることが、そのまま情報の安全を守ることにつながっています。
大きな素数探しも続いています。インターネットで協力して素数を探す GIMPS というプロジェクトでは、2024 年 10 月に新しい素数が確かめられました。2 の 136,279,841 乗から 1 を引いた数で、4,102 万 4,320 桁あります。2026 年 10 月の時点で、知られている最大の素数です。
「計算は簡単でも、元に戻すのは難しい」ことが、暗号の安全を支えています。
図解8051 を素数のかけ算に分ける
- 12、3、5、7…と小さい素数で割っても、なかなか割り切れない
- 290 × 90 = 8100 に近いことに気づき、8051 = 8100 − 49 と書く
- 349 = 7 × 7 なので、90 × 90 − 7 × 7 の形になる
- 4(90 − 7) × (90 + 7) と因数分解できる

02
群と対称性: ルービックキューブを数学で解く
代数学では、数だけでなく「操作」も計算の対象にします。正三角形の板を、もとの枠にぴったり収まるように動かす方法は 6 通りです。120 度ずつの回転が 3 通り(動かさないことも含む)、裏返しが 3 通りあります。
6 通りのどれか 2 つを続けて行っても、結果はやはり 6 通りのどれかになります。どの操作にも、元に戻す操作があります。こうした性質をもつ操作の集まりを群と呼びます。
ルービックキューブの面を回す操作も群になります。色の並び方は約 4,325 京通りです。2010 年、研究者たちはグーグルが提供したコンピュータで計算を分担しました。そして、どんな崩し方でも 20 手以内(180 度回しも 1 手と数える)でそろえられることを証明しました。キューブの対称性を使って、調べる場合の数を大きく減らしたからこそできた計算です。
群は、雪の結晶や壁紙の模様の対称性も表します。平面をすき間なく埋めるくり返し模様は、対称性の種類で分けると 17 種類しかないことが、19 世紀の終わりに証明されました。化学では分子の形の分類に、物理学では素粒子の理論にも群が使われています。
群は、「動かしても変わらないもの」を見つけるための道具です。
図解身のまわりの対称性と群
- ルービックキューブ面を回す操作の組み合わせ
- 正三角形回転と裏返しで 6 通り
- 雪の結晶60 度回しても同じ形
- 壁紙の模様くり返し方は 17 種類
- 分子の形化学で形を分類する


03
方程式とガロア理論: 5 次方程式に解の公式はない
高校で学ぶ 2 次方程式には、係数を入れれば答えが出る「解の公式」があります。16 世紀のイタリアでは 3 次方程式と 4 次方程式の解き方が見つかり、1545 年にカルダノが本にまとめました。そこから約 280 年、5 次方程式の公式探しが続きます。
答えを出したのは 2 人の若者でした。1824 年、ノルウェーのアーベルは、5 次以上の方程式には、四則演算と累乗根だけでできた一般の解の公式は作れないことを証明しました。フランスのガロアは、方程式の解を入れ替える操作の群を調べれば、累乗根で解けるかどうかを判定できることを示しました。
ガロアは 1832 年、決闘で傷を負い 20 歳で亡くなりました。残された論文は 1846 年に数学者リウヴィルが出版し、その考えはガロア理論として現代の代数学の柱になりました。多くの大学では、3 年生ごろにガロア理論を学びます。
「作れない」ことを証明できるのも、数学の大きな力です。
図解解の公式をめぐる歴史
- 12 次方程式古代バビロニアにも解き方があった
- 23 次・4 次方程式1545 年、カルダノの本で広まる
- 35 次以上1824 年、一般の公式はないと証明
- 4ガロア理論解ける方程式を群で見分ける

04
フェルマーの最終定理: 350 年以上かかった証明
1637 年ごろ、フランスのフェルマーは、古代ギリシャの数学書『算術』の余白に書き込みをしました。「n が 3 以上のとき、x の n 乗 + y の n 乗 = z の n 乗をみたす正の整数はない。驚くべき証明を見つけたが、余白が狭すぎて書けない」。このフェルマーの最終定理は、その後 350 年以上、だれにも証明できませんでした。
証明の鍵になったのは、日本の数学者の研究です。1955 年に谷山豊が示した問いをもとに、志村五郎が形を整えたのが「谷山・志村予想」です。1980 年代、この予想が正しければフェルマーの最終定理も正しいことが分かりました。イギリスのワイルズは 7 年ほどひそかにこの予想に取り組み、教え子だったテイラーの協力も得て、1995 年に証明を発表しました。
整数の問題には、まだ解かれていないものもたくさんあります。素数の並び方に関わる「リーマン予想」は 1859 年に出された問題です。最初の 10 兆個の場合で成り立つことが計算で確かめられていますが、証明はありません。クレイ数学研究所は、この問題に 100 万ドルの懸賞金をかけています。
大学の代数学では、群・環・体といった言葉の定義から始め、定理を 1 つずつ証明して積み上げます。抽象的に見えますが、小さな具体例を手で計算すると、ぐっと分かりやすくなります。暗号やセキュリティの研究、ソフトウェアの開発、数学の先生など、代数学で鍛えた考える力を生かせる仕事はたくさんあります。

高校生のうちに試せること
エラトステネスのふるいで素数を探す
1 から 100 までの数を表に書き、1 を消します。次に 2 を残して 2 の倍数を消し、3、5、7 でも同じように消しましょう。残った数が素数で、25 個になるはずです。
平方の差で大きな数を分解する
電卓を使って、3233 と 10403 を 2 つの素数のかけ算に分けてみましょう。小さい素数から順に割る方法と、近くの平方数との差を使う方法を比べると、工夫の力が実感できます。
ルービックキューブで「戻るまでの回数」を数える
1 つの面を 90 度回す操作は、4 回くり返すと元に戻ります。好きな手順を決めてくり返し、何回で元に戻るかを数えてみましょう。群の考え方では、どんな手順でも必ずいつか元に戻ります。
日本数学オリンピックの過去問を解く
数学オリンピック財団が開く、高校生以下が参加できる大会です。素数や合同式などの整数の問題も出題され、公式サイトで過去の問題を見られます。参加の条件と日程は、年度ごとに公式サイトで確認してください。
数学オリンピック財団
「代数学」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 37 件から探せます。
橋詰研究室
新潟大学(新潟県)
理学部 理学科 数学プログラム・代数幾何学・橋詰 健太 助教

星研究室
新潟大学(新潟県)
理学部 理学科 数学プログラム・代数学・数論・星 明考 教授
不変体の有理性問題や構成的ガロア逆問題、Thue方程式の解の決定などを研究する。
高木研究室
東京大学(東京都)
情報理工学系研究科数理情報学専攻・情報セキュリティ・暗号理論・ポスト量子暗号・高木 剛 教授

応用代数学
岡山大学(岡山県)
工学部 情報・電気・数理データサイエンス系 数理データサイエンスコース・可換環論・早坂 太 教授
グレブナー基底を使った代数計算や統計への応用と、可換環論の基礎理論を研究する。
代数学
岡山大学(岡山県)
環境生命自然科学研究科 数理情報科学 数理科学・代数学・寺井 直樹 教授
数論・環論・代数幾何学・表現論など、演算をもつ代数系を基礎とする代数学を研究する。

情報セキュリティ工学
岡山大学(岡山県)
工学部 情報・電気・数理データサイエンス系 ネットワーク工学コース・暗号理論・野上 保之 教授
楕円曲線暗号やペアリング暗号の開発と、暗号の安全性検証や誤り訂正符号を研究する。
学生団体・機関はまだ掲載していません
よくある質問
代数学は、高校のどの内容とつながっていますか?
数学 A の「数学と人間の活動」で学ぶ約数・倍数やユークリッドの互除法、数学 II の複素数と方程式が入口になります。多くの大学では、2 年生ごろに群や環の入門を学び、3 年生でガロア理論などに進みます。科目の名前や順番は大学によって異なります。
暗号の研究は、数学科と情報系の学科のどちらで学べますか?
どちらでも学べます。数学科では整数論や代数学として、情報系の学科では情報セキュリティや暗号理論として扱います。研究室によって、数学の理論寄りか、実際のシステム寄りかが違うので、研究室の紹介を見比べてみてください。
