図 1 数学の広がり数学の広がり 3
解析学
微分積分を土台に、変化や無限を正しく扱う方法を考える分野です。惑星の動き、冷めていく紅茶、音楽や写真のデータ圧縮、潮の満ち引きまで、「変わっていくもの」を数式で読み解きます。

ひとことで言うと
動画を 1 コマずつ止めて、動きを読む
動画を 1 コマずつ止めて見ると、ボールがどれだけ速く、どちらへ動いているかが分かります。解析学は、コマの間かくを限りなく短くしたときに何が起きるかを正しく考え、変化のようすを数式で表す分野です。

01
極限: 無限をまちがえずに扱う
古代ギリシャのゼノンは、「足の速いアキレスも、先を行く亀には追いつけない」という話を残しました。アキレスが亀のいた場所に着くと、亀は少し先に進んでいる。これが限りなくくり返されるから、という理屈です。実際には追いつけるのに、どこがおかしいのでしょうか。
鍵は、限りなく続く足し算でも、和が決まった値になることがある点です。1/2 + 1/4 + 1/8 + … と半分ずつ足していくと、和は 1 に限りなく近づきます。同じ考え方で、0.999… と 9 が限りなく続く数は、ちょうど 1 に等しいことが示せます。
円周率も、極限の考え方で求められます。紀元前 3 世紀、アルキメデスは円の内側と外側に正 96 角形をかきました。そして、円周率が 3 と 10/71 より大きく、3 と 1/7 より小さいことを示しました。角の数を増やすほど、正多角形のまわりの長さは円周に近づきます。
大学の 1 年生では、「限りなく近づく」をあいまいさなしに言い表す ε-δ 論法を学びます。最初はとまどう人が多い考え方ですが、ここを越えると、高校で使ってきた微分積分の公式がなぜ成り立つのかが分かるようになります。
「限りなく近づく」を正確に言い表すことが、解析学の出発点です。
図解円の内側の正多角形で、円周率に近づく
- 1正 6 角形まわりの長さは直径の 3 倍
- 2正 12 角形直径の約 3.106 倍
- 3正 24 角形直径の約 3.133 倍
- 4正 96 角形直径の約 3.141 倍

02
微分方程式: 変化のルールから未来を計算する
微分方程式は、「いまの状態から、次の瞬間にどう変わるか」というルールを表す式です。このルールを解くと、先の時刻の状態を計算できます。
身近な例が、冷めていく紅茶です。熱い飲み物が冷める速さは、室温との温度差にほぼ比例します。このルールを解くと、温度差が一定の時間ごとに同じ割合で小さくなっていくことが分かります。
惑星の動きも微分方程式で計算できます。1846 年、フランスのルヴェリエは、天王星の動きのずれから、その外側にある未知の惑星の位置を計算で予測しました。ベルリン天文台のガレがその方向を望遠鏡で探すと、予測した位置から 1 度以内のところで海王星が見つかりました。紙と鉛筆の計算が、新しい惑星を見つけたのです。
ばねや振り子の揺れ、電気回路の電流、感染症の広がり、人口の増え方も、微分方程式で表されます。1 つの式の形が、まったく違う現象に当てはまることがあるのも、数学の面白さです。
微分方程式を解くことは、変化のルールから未来を予測することです。
図解冷めていく紅茶の温度(例)
- 1室温との差 70 ℃ が、10 分で半分になったとする
- 210 分後は差が 35 ℃ になり、55 ℃
- 320 分後は差が 17.5 ℃ になり、37.5 ℃

03
フーリエ解析: 音や画像を波に分ける
フランスのフーリエは 19 世紀の初め、熱の伝わり方を調べる中で、複雑な形の変化も、単純な波(三角関数のグラフ)を足し合わせて表せると考えました。この考え方で、信号にどんな高さの波がどれだけ含まれているかを調べるのがフーリエ解析です。
楽器の音は、基本の高さの波と、その 2 倍、3 倍の高さの波が重なってできています。同じ高さの「ラ」でも、ピアノとギターで聞こえ方が違うのは、重なる波の割合が違うからです。スマートフォンで音の高さを調べるアプリや、音声認識にもフーリエ解析が使われています。
写真の JPEG や音楽の MP3 などのデータ圧縮も、フーリエ解析の仲間の計算を使っています。JPEG では、画像を 8 × 8 画素の小さなかたまりに分けて波の成分に直し、人の目では気づきにくい細かい成分を省いてデータを小さくします。
潮の満ち引きの予報にも使われてきました。潮の高さは、月や太陽の動きに合わせた、周期の違う波の重なりとして表せます。19 世紀の後半、イギリスのケルヴィン卿はこの考え方を潮の予報に生かし、歯車と滑車で波を足し合わせて潮の高さを計算する機械を作りました。
どんなに複雑な形も、単純な波の組み合わせで表せる、という発見です。
図解フーリエ解析が使われている場所
- 音楽の圧縮MP3 などで聞こえにくい音を省く
- 写真の圧縮JPEG で細かい成分を省く
- 音声の認識声を高さごとの成分に分ける
- 医療の画像MRI で信号から体の断面を描く
- 潮の予報周期の違う波を足し合わせる

04
複素関数論と、大学で学ぶ解析学
2 乗すると −1 になる数 i(虚数単位)は、高校の数学 II で登場します。大学では、i を含む複素数を入力とする関数を調べる複素関数論を学びます。電気回路の交流の計算や、量子力学の方程式にも複素数が欠かせません。
オイラーが 18 世紀に見つけた式から、e の iπ 乗に 1 を足すと 0 になる、という関係が導かれます。数学で大切な e、i、π、1、0 の 5 つの数が 1 つの式に収まることから、「最も美しい式」と呼ばれることもあります。日本では岡潔が、複素数の変数を 2 つ以上もつ関数の理論で大きな業績を挙げ、1960 年に文化勲章を受けました。
解析学にも未解決の問題があります。水や空気の流れを表すナビエ・ストークス方程式は、天気の予測や飛行機の設計に使われていますが、どんな場合にもきちんとした解があるのかは分かっていません。クレイ数学研究所が 100 万ドルの懸賞金をかけた問題の 1 つです。
多くの大学では、1 年生で微分積分を学び、2〜3 年生で微分方程式や複素関数論、フーリエ解析に進みます。解析学の知識は、気象や金融の数理モデル、音声や画像の処理、ものづくりのシミュレーションなどの仕事に生かせます。
高校生のうちに試せること
紅茶が冷める様子をグラフにする
温度計で、熱いお湯や紅茶の温度を 2 分ごとに 30 分ほど測り、表計算ソフトでグラフにしましょう。室温との差が、同じ時間ごとにどれくらいの割合で減るかを調べてください。やけどには気をつけてください。
スマートフォンで音を波に分ける
無料のアプリ phyphox の「Audio Spectrum(音のスペクトル)」の実験は、マイクで拾った音をフーリエ変換して、どの高さの成分が強いかを表示します。声や楽器、口笛で違いを比べましょう。
phyphox関数電卓で円周率に近づく
円の内側の正 n 角形のまわりの長さは、直径の n × sin(180°/n) 倍です。n を 6、12、96、1000 と増やして計算し、3.14159… に近づく様子を確かめましょう。
「解析学」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 24 件から探せます。
非線形解析
熊本大学(熊本県)
工学部 機械数理工学科 数理工学教育プログラム・応用解析学・北直泰 教授
物理や工学の現象を表す偏微分方程式を、理論と数値シミュレーションで研究する。
大井研究室
新潟大学(新潟県)
理学部 理学科 数学プログラム・関数解析学・大井 志穂 准教授
Banach環の間の写像が距離や代数構造を保つときに何が言えるかという保存問題を研究する。

応用解析学
岡山大学(岡山県)
工学部 情報・電気・数理データサイエンス系 数理データサイエンスコース・数理生物学・佐々木 徹 教授
微分方程式を中心とする解析学と、個体数変動やウイルス動態など数理生物学への応用を研究する。
松尾研究室
東京大学(東京都)
情報理工学系研究科数理情報学専攻・微分方程式の数値解法・数値解析全般・シミュレーション・松尾 宇泰 教授
三浦研究室
新潟大学(新潟県)
理学部 理学科 数学プログラム・関数解析学・三浦 毅 教授
関数環や可換Banach環の上で、スペクトルや距離を保つ写像の構造を調べる。
微分方程式グループ
大阪大学(大阪府)
基礎工学研究科システム創成専攻・微分方程式・小林 孝行 教授
学生団体・機関はまだ掲載していません
よくある質問
数学 III を学んでいないと、解析学は難しいですか?
大学の微分積分は、多くの場合、極限の定義から学び直します。数学 III を学んでおくと計算に慣れているぶん有利ですが、大学で身につけ直すこともできます。入試で数学 III が必要かどうかは、大学や学部によって異なります。
フーリエ解析は、数学科以外でも学びますか?
電気電子工学、情報工学、機械工学、物理学などでもよく使われ、多くの理工系の学科で授業があります。数学科では、なぜその計算が成り立つのかを、関数の収束の議論まで含めて学ぶのが特徴です。
