図 1 数学の広がり数学の広がり 5
応用: 応用数理
数学を道具にして、社会や科学の問題を解く分野です。コンピュータで答えを計算する方法、いちばんよい選び方を探す方法、情報を守って正しく届ける方法、お金や保険のリスクを測る方法を学びます。

ひとことで言うと
道具箱から、目的に合う道具を選んで使う
大工さんは、のこぎりやかんなを場面ごとに使い分けて家を建てます。応用数理は、代数学や解析学、確率論で作られた道具を使い分けて、天気予報や配送の計画、暗号といった現実の問題を解く分野です。

01
数値解析: コンピュータで答えを出すための数学
多くの方程式は、紙と鉛筆では答えを式で書き表せません。そこで、コンピュータで答えに近い値を計算する方法を考え、その誤差がどれくらいかを確かめるのが数値解析です。
古くからある例が、√2 の計算です。「x と 2 ÷ x の平均をとる」手順をくり返すと、1 から始めても 3 回で 1.41421…と小数第 5 位まで正しい値が出ます。これは、微分を使って方程式の解に近づくニュートン法の一例で、くり返すたびに正しい桁数がおよそ 2 倍になります。
天気予報も数値解析の成果です。気象庁は 1959 年にコンピュータ IBM 704 を導入し、アメリカに次いで、大気の動きを表す方程式をコンピュータで解く数値予報を始めました。いまはスーパーコンピュータで、地球の大気を細かい格子に区切って計算しています。
コンピュータの計算にも落とし穴があります。多くのプログラミング言語で 0.1 + 0.2 を計算すると、0.30000000000000004 になります。コンピュータは数を 2 進法で記録するため、0.1 をぴったり表せないからです。こうした誤差がどこまで広がるかを見積もるのも、数値解析の大事な仕事です。
答えを「どれくらい正しく」出せたかまで確かめるのが、数値解析です。
図解くり返しの計算で √2 に近づく
- 1出発1
- 21 回目1.5
- 32 回目1.41666…
- 43 回目1.41421568…
- 5本当の値1.41421356…


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最適化: いちばんよい選び方を探す
最適化は、限られた条件の中で、費用をいちばん小さく、あるいは利益をいちばん大きくする選び方を探す分野です。配送のトラックが回る順番、工場の生産計画、病院の勤務表、学校の時間割づくりなども、最適化の問題として表せます。
代表的な方法が線形計画法です。1947 年にアメリカのダンツィクが、たくさんの変数をもつ問題を効率よく解く「単体法(シンプレックス法)」を考えました。資源の最適な配分の研究では、旧ソ連のカントロビッチらが 1975 年にノーベル経済学賞を受けています。
考え方の入口は、高校の数学 II で学ぶ「不等式の表す領域」です。文化祭でクッキーとマフィンを作るとき、小麦粉とバターの量に限りがあれば、作れる個数の組み合わせはグラフの上の領域になります。売上がいちばん大きくなる組み合わせは、その領域の角のどこかに必ずあります。
最適化は、「いちばんよい答え」がどこにあるかを数学で絞り込む方法です。
図解文化祭のお菓子づくり(例)
- 1材料の条件を 2 つの不等式で表す
- 2作れる個数の組み合わせを、グラフの上の領域として描く
- 3領域の角 (40 袋, 0 個)・(0 袋, 30 個)・(30 袋, 15 個) で売上を比べる

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暗号と符号: 情報を守り、正しく届ける
符号理論は、データに少しだけ余分な情報を付けて、読みまちがいを見つけたり直したりする方法を研究します。身近な例が、お菓子や文房具に印刷された 13 けたのバーコード(JAN コード)です。最後の 1 けたは「チェックデジット」と呼ばれ、ほかの 12 けたから計算で決まります。
レジで読み取ったとき、計算が合わなければ読みまちがいだと分かります。1 けただけまちがえた場合は、必ず見つけられるしくみです。CD に少し傷があっても音楽が途切れずに再生できるのも、まちがいを直せる符号のおかげです。
暗号の世界では、新しい課題が生まれています。いま広く使われている RSA 暗号などは、大きな数の素因数分解が難しいことを安全の根拠にしています。ところが 1994 年、ショアが、量子コンピュータが実用化されれば素因数分解を速く解けることを示しました。
そこでアメリカの国立標準技術研究所(NIST)は、世界から集まった 82 の方式を 8 年かけて審査しました。そして 2024 年 8 月、量子コンピュータでも解読が難しいとされる暗号の標準を 3 つ発表しました。そのうち 2 つは、点が規則正しく並んだ格子の上の難しい問題を土台にしています。
少しの「余分」を足すことで、まちがいに気づける。これが符号の考え方です。
図解バーコードのチェックデジットを計算する
- 1チェックデジットを 1 けた目として、右から順に番号を付ける
- 2偶数けた目の数字の和 33 を 3 倍して 99
- 3奇数けた目(チェックデジットを除く)の数字の和は 22
- 499 + 22 = 121。下 1 けたの 1 を 10 から引く

04
数理モデル: 保険・金融から渋滞まで
保険料は、病気や事故がどれくらいの確率で起きるかを見積もって決めます。その土台になるのが、年齢ごとに 1 年間で亡くなる人の割合をまとめた生命表です。1693 年には、ハレー彗星で知られる天文学者ハレーが、ブレスラウ(現在のポーランドのブロツワフ)の記録から生命表を作りました。いまは、確率・統計を使って保険や年金の数字を計算する専門職、アクチュアリーが活躍しています。
金融でも数学が使われています。1973 年に発表されたブラック・ショールズの式は、株価の偶然の動きを確率で表し、オプションという金融商品の値段を計算する方法を示しました。1997 年には、この研究に関わったマートンとショールズにノーベル経済学賞が贈られています。
数理モデルは、渋滞のような身近な現象も説明します。2008 年、名古屋大学や東京大学などの研究者が、ある実験の結果を発表しました。1 周 230 m の円形のコースに 22 台の車を並べ、運転手に時速 30 km ほどで走ってもらう実験です。合流や坂がないのに、少しの速度のゆらぎが広がって、やがて渋滞が生まれました。渋滞のかたまりは、高速道路で観測されるのと同じく、時速約 20 km で後ろへ進んでいきました。
応用数理を学んだ人は、メーカーや IT 企業の研究開発、金融機関や保険会社、気象や交通に関わる研究機関などで、数学を道具に問題を解く仕事をしています。
高校生のうちに試せること
電卓で √2 を計算する
x = 1 から始めて、「(x + 2 ÷ x) ÷ 2」を新しい x にする計算をくり返しましょう。何回目で電卓の √ ボタンの値と一致するかを数え、2 を 3 や 5 に変えて √3 や √5 でも試してください。
0.1 + 0.2 を自分で確かめる
パソコンのブラウザの開発者ツールのコンソールや、無料で使える Python の環境で 0.1 + 0.2 を計算してみましょう。0.5 + 0.25 のように、2 進法でぴったり表せる数との違いも比べてください。
家にある商品のバーコードを検算する
お菓子や文房具の 13 けたのバーコードを書き写し、GS1 Japan の手順でチェックデジットを計算しましょう。最後の数字と一致すれば成功です。
GS1 Japan「チェックデジットの計算方法」
「応用: 応用数理」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 36 件から探せます。
ブラックボックス最適化研究室
筑波大学(茨城県)
メディア工学・知能情報工学
武田研究室
東京大学(東京都)
情報理工学系研究科数理情報学専攻・連続最適化・オペレーションズ・リサーチ・武田 朗子 教授

情報セキュリティ工学
岡山大学(岡山県)
工学部 情報・電気・数理データサイエンス系 ネットワーク工学コース・暗号理論・野上 保之 教授
楕円曲線暗号やペアリング暗号の開発と、暗号の安全性検証や誤り訂正符号を研究する。
伊藤研究室
東京大学(東京都)
情報理工学系研究科数理情報学専攻・機械学習・離散最適化・連続最適化・伊藤 伸志 准教授
応用数理システム研究室
筑波大学(茨城県)
数理情報工学

四方研究室
横浜国立大学(神奈川県)
理工学部 数物・電子情報系学科 情報工学教育プログラム・暗号理論・情報セキュリティ・四方 順司 教授
計算困難性や情報理論に基づく暗号・プライバシ技術を研究する。
学生団体・機関はまだ掲載していません
よくある質問
応用数理は、数学科と工学部のどちらで学べますか?
どちらでも学べます。数学科や数理科学科のほか、工学部の応用数学や数理工学の学科、情報系の学科にも研究室があります。数学科では理論の証明に、工学部では現実の問題への使い方に重点を置くことが多いですが、学科によって異なります。
プログラミングは必要ですか?
数値解析や最適化では、計算をコンピュータで実行するので、Python などのプログラミングを使います。多くの大学では 1 年生でプログラミングの入門があり、高校で情報 I を学んでいれば無理なく始められます。
