
ひとことで言うと
地図のない場所に、最初の道をつける
数学の定理は、一度証明されると、何百年たっても正しいままです。研究者の仕事は、まだだれも歩いたことのない場所に、だれもが通れる確かな道をつけることです。その道は、後から来る人たちの次の出発点になります。

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どんな仕事?: まだだれも知らない定理を証明する
数学の研究者は、新しい性質を見つけ、それがいつでも成り立つことを証明します。たくさんの例を計算したり図を描いたりして予想を立て、何か月、ときには何年もかけて証明を組み立てます。
できた証明は論文にまとめ、ほかの研究者が細かく確かめる審査(査読)を受けて、学術誌に載ります。雑誌に載る前に、論文の原稿をインターネット上の公開サイト(arXiv など)に出すこともあります。
研究者どうしの交流も盛んです。日本数学会は、毎年 3 月の年会と 9 月の秋季総合分科会を開き、約 1,500 人の数学者が集まって研究を発表し合います。海外の研究者と、1 つの問題に共同で取り組むことも珍しくありません。
数学の研究には、大きな実験装置がいりません。紙と鉛筆、黒板があれば、どこでも考えられます。日本数学会も、数学の世界は年齢や職業に関係なく、だれにでも開かれていると紹介しています。
一度証明された定理は、何百年たっても正しいままです。
図解数学の研究の進み方
- 1問いを選ぶ論文を読み、未解決の問題を知る
- 2例を調べる計算したり、図を描いたりする
- 3予想を立てるいつでも成り立ちそうな形にする
- 4証明する穴を見つけては直すことをくり返す
- 5論文にする査読を経て学術誌に載る

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100 年越しの答え: 日本から生まれた「掛谷の問題」
1917 年、日本の数学者の掛谷宗一は、こんな問題を出しました。長さ 1 の針を平面の上で 1 回転させるとき、針が通る部分の面積は、どこまで小さくできるか。針の真ん中を中心に回せば円になりますが、もっと小さな形でも回せないか、という問いです。
その後、数学者のベシコビッチが、面積はいくらでも小さくできることを示しました。この問題は、「あらゆる向きの針を含む集合は、どこまで小さくなれるか」という掛谷予想へと形を変えて、研究が続きました。
3 次元の空間での掛谷予想は、長いあいだ解かれていませんでした。2025 年のはじめ、ホン・ワンさんとジョシュア・ザールさんが、これを証明した論文を公開しました。ワンさんは 2026 年、この研究などが評価されて、フィールズ賞を受けています。100 年以上前に日本で生まれた問いが、いまも世界の数学を動かしているのです。
数学の問いは、国も時代もこえて受けつがれていきます。


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大学・研究所・企業: 研究する場所
多くの研究者は、大学で講義や学生の指導をしながら研究を続けます。研究のための研究所もあり、京都大学の数理解析研究所はその 1 つです。2025 年には、この研究所の柏原正樹さんが、数学の国際的な賞であるアーベル賞を受けました。日本人として初めての受賞です。
柏原さんは受賞にあたり、50 年を超える研究全体が評価されたと話しています。数学の研究は、1 つのテーマを長い年月をかけて深めていくことができる仕事でもあります。
企業の研究職として、数学を生かす人もいます。インターネットの通信を守る暗号、配送や時刻表を効率よく組む最適化、AI の理論などは、数学の研究と深くつながっています。
大学でも企業でも、数学の研究は社会の土台につながっています。
図解数学の研究者が働く 3 つの場所
大学
- 講義やセミナーで学生を育てる
- 自分のテーマを深く追う
- 論文と学会で成果を出す
研究所
- 研究を中心に働く
- ほかの研究者と共同で取り組む
- 研究集会で議論する
企業
- 暗号や最適化の理論を研究する
- 製品やサービスに生かす
- 大学と共同で研究することも

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大学の数学の研究者の 1 日(例)
ここでは、大学の数学科で働く若手の研究者(助教)の 1 日の例を紹介します。授業の多い日と少ない日で、過ごし方は大きく変わります。
研究の時間は、ほとんどが「考える」時間です。ノートに図を描き、うまくいかない例を探し、別の道を試します。行き詰まったら、共同研究者と黒板の前で議論します。人に説明しようとして、自分の証明の穴に気づくこともあります。
夕方のセミナーでは、大学院生が専門書や論文を読んで発表し、教員や仲間が質問します。研究者自身も、こうしたセミナーで 1 行ずつ確かめる読み方を身につけてきました。
考える時間、伝える時間、育てる時間が組み合わさっています。
図解大学の数学の研究者の 1 日(例)
- 9:00論文のチェック新しく公開された論文を読む
- 10:40講義1 年生に線形代数を教える
- 12:10昼休み
- 13:00研究ノートに図を描き、証明を考える
- 15:00共同研究黒板の前で仲間と議論する
- 16:30セミナー大学院生の発表を聞いて質問する
- 18:00論文を書く分かったことを英語でまとめる

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向いている人と、大学院・その先
数学の研究者になるには、大学院に進むのが一般的です。修士課程(多くは 2 年)では、専門の論文を読みこなせるようになることを目指します。博士課程(多くは 3 年)では、自分の新しい結果を論文にまとめ、博士の学位を目指します。
博士課程の学生が研究に打ち込めるよう、日本学術振興会の特別研究員(DC)という制度があります。採用されると、3 年間、月額 20 万〜23 万円(支給予定額)の研究奨励金を受けられます。博士の学位を取ったあとは、任期つきの研究員などで経験を積みながら、大学や研究所、企業の研究職を目指します。
1 つの問題を何日も考え続けられる人、分からない状態を楽しめる人に向いています。すぐに答えが出ない時間こそが研究です。証明できたときには、だれも見たことのない景色を最初に見る喜びがあります。
セミナーで専門書を 1 行ずつ読む経験が、研究の第一歩です。
図解数学の研究者への道(例)
- 1学部4 年のセミナーで専門書を読む
- 2修士課程多くは 2 年。論文を読み込む
- 3博士課程多くは 3 年。新しい結果を証明する
- 4研究員など任期つきで研究の経験を積む
- 5大学・研究所・企業研究を続け、次の世代を育てる
高校生のうちに試せること
日本数学会の市民講演会を聞く
日本数学会は、春と秋の学会に合わせて、高校生や一般の人向けのやさしい数学の講演会を開いています。入場は無料で、これまでの講演の動画や記録も公開されています。
市民講演会(日本数学会)針を回す問題を紙の上で試す
つまようじを紙の上で 1 回転させ、通った部分を鉛筆でなぞってみましょう。真ん中を中心に回したときと、端を中心に回したときで、なぞった形の面積を比べると、掛谷の問いの入り口に立てます。
「算数・数学の自由研究」に応募する
理数教育研究所が開く作品コンクールで、高校生の部もあります。身のまわりの数の不思議を自分で調べ、レポートにまとめて応募します。2026 年度は 8 月 20 日から 9 月 7 日まで作品を受け付けました。
算数・数学の自由研究(理数教育研究所)
「研究者」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 44 件から探せます。
橋詰研究室
新潟大学(新潟県)
理学部 理学科 数学プログラム・代数幾何学・橋詰 健太 助教
力学形数理分野
京都大学(京都府)
情報学研究科情報学専攻・数理物理学
折田研究室
新潟大学(新潟県)
理学部 理学科 数学プログラム・位相幾何学・折田 龍馬 准教授
シンプレクティック幾何学を中心に、ハミルトン力学系の周期軌道などを研究する。
多様幾何グループ
広島大学(広島県)
先進理工系科学研究科 数学プログラム・数学・藤森 祥一 教授
微分幾何学、位相幾何学、多様体論などを研究している。

星研究室
新潟大学(新潟県)
理学部 理学科 数学プログラム・代数学・数論・星 明考 教授
不変体の有理性問題や構成的ガロア逆問題、Thue方程式の解の決定などを研究する。
大井研究室
新潟大学(新潟県)
理学部 理学科 数学プログラム・関数解析学・大井 志穂 准教授
Banach環の間の写像が距離や代数構造を保つときに何が言えるかという保存問題を研究する。
学生団体・機関はまだ掲載していません
よくある質問
数学の研究で、まだ新しく分かることは残っているのですか?
たくさん残っています。掛谷宗一の問いのように、100 年以上たってようやく答えが見えてきた問題もあれば、いまも答えの出ていない問題も数多くあります。新しい分野が生まれるたびに、新しい問いも生まれています。
博士課程に進むと、生活はどうなりますか?
日本学術振興会の特別研究員(DC)に採用されると、研究奨励金を受けながら研究に専念できます。授業の手伝い(ティーチング・アシスタント)や、大学独自の支援で収入を得る方法もあります。支援の内容は大学によって異なります。
研究者になれなかったら、どうなりますか?
大学院で身につけた、1 つの問題を深く考え抜く力は、ほかの仕事でも生かせます。博士の学位を持って、IT やデータ分析、金融などの企業で働く人もいます。
