大学カタログ

図 3 仕事での生かし方仕事での生かし方 4

研究者

大学院に進み、まだだれも証明していない定理に挑む仕事です。大学や研究所で数学そのものを広げる人も、企業で暗号や最適化の理論を研究する人もいます。

研究室の大きな黒板いっぱいに曲線や結び目、立体の図を描き、身を乗り出して議論する大学院生と研究者たち

ひとことで言うと

地図のない場所に、最初の道をつける

数学の定理は、一度証明されると、何百年たっても正しいままです。研究者の仕事は、まだだれも歩いたことのない場所に、だれもが通れる確かな道をつけることです。その道は、後から来る人たちの次の出発点になります。

01

どんな仕事?: まだだれも知らない定理を証明する

数学の研究者は、新しい性質を見つけ、それがいつでも成り立つことを証明します。たくさんの例を計算したり図を描いたりして予想を立て、何か月、ときには何年もかけて証明を組み立てます。

できた証明は論文にまとめ、ほかの研究者が細かく確かめる審査(査読)を受けて、学術誌に載ります。雑誌に載る前に、論文の原稿をインターネット上の公開サイト(arXiv など)に出すこともあります。

研究者どうしの交流も盛んです。日本数学会は、毎年 3 月の年会と 9 月の秋季総合分科会を開き、約 1,500 人の数学者が集まって研究を発表し合います。海外の研究者と、1 つの問題に共同で取り組むことも珍しくありません。

数学の研究には、大きな実験装置がいりません。紙と鉛筆、黒板があれば、どこでも考えられます。日本数学会も、数学の世界は年齢や職業に関係なく、だれにでも開かれていると紹介しています。

一度証明された定理は、何百年たっても正しいままです。

図解数学の研究の進み方

  1. 1問いを選ぶ論文を読み、未解決の問題を知る
  2. 2例を調べる計算したり、図を描いたりする
  3. 3予想を立てるいつでも成り立ちそうな形にする
  4. 4証明する穴を見つけては直すことをくり返す
  5. 5論文にする査読を経て学術誌に載る

02

100 年越しの答え: 日本から生まれた「掛谷の問題」

1917 年、日本の数学者の掛谷宗一は、こんな問題を出しました。長さ 1 の針を平面の上で 1 回転させるとき、針が通る部分の面積は、どこまで小さくできるか。針の真ん中を中心に回せば円になりますが、もっと小さな形でも回せないか、という問いです。

その後、数学者のベシコビッチが、面積はいくらでも小さくできることを示しました。この問題は、「あらゆる向きの針を含む集合は、どこまで小さくなれるか」という掛谷予想へと形を変えて、研究が続きました。

3 次元の空間での掛谷予想は、長いあいだ解かれていませんでした。2025 年のはじめ、ホン・ワンさんとジョシュア・ザールさんが、これを証明した論文を公開しました。ワンさんは 2026 年、この研究などが評価されて、フィールズ賞を受けています。100 年以上前に日本で生まれた問いが、いまも世界の数学を動かしているのです。

数学の問いは、国も時代もこえて受けつがれていきます。

クイズ数学の研究のクイズ

答えを 1 つ選んでください。

  1. Q1掛谷宗一が、針を回す問題を出したのは何年?

  2. Q2日本数学会の年会や秋季総合分科会に集まる数学者は、およそ何人?

  3. Q3日本学術振興会の特別研究員(DC)に採用された博士課程の学生が受ける研究奨励金は、月額いくら?

0 / 3 問に回答
赤い布の上に置かれた金色のメダル。ひげのある男性の横顔が浮き彫りになっている
フィールズ賞のメダル。表には、古代ギリシャの数学者アルキメデスの横顔が刻まれています。2026 年には、掛谷予想の研究で知られるホン・ワンさんらが受けました。写真: Stefan Zachow(Public domain・Wikimedia Commons)

03

大学・研究所・企業: 研究する場所

多くの研究者は、大学で講義や学生の指導をしながら研究を続けます。研究のための研究所もあり、京都大学の数理解析研究所はその 1 つです。2025 年には、この研究所の柏原正樹さんが、数学の国際的な賞であるアーベル賞を受けました。日本人として初めての受賞です。

柏原さんは受賞にあたり、50 年を超える研究全体が評価されたと話しています。数学の研究は、1 つのテーマを長い年月をかけて深めていくことができる仕事でもあります。

企業の研究職として、数学を生かす人もいます。インターネットの通信を守る暗号、配送や時刻表を効率よく組む最適化、AI の理論などは、数学の研究と深くつながっています。

大学でも企業でも、数学の研究は社会の土台につながっています。

図解数学の研究者が働く 3 つの場所

大学

  • 講義やセミナーで学生を育てる
  • 自分のテーマを深く追う
  • 論文と学会で成果を出す

研究所

  • 研究を中心に働く
  • ほかの研究者と共同で取り組む
  • 研究集会で議論する

企業

  • 暗号や最適化の理論を研究する
  • 製品やサービスに生かす
  • 大学と共同で研究することも

04

大学の数学の研究者の 1 日(例)

ここでは、大学の数学科で働く若手の研究者(助教)の 1 日の例を紹介します。授業の多い日と少ない日で、過ごし方は大きく変わります。

研究の時間は、ほとんどが「考える」時間です。ノートに図を描き、うまくいかない例を探し、別の道を試します。行き詰まったら、共同研究者と黒板の前で議論します。人に説明しようとして、自分の証明の穴に気づくこともあります。

夕方のセミナーでは、大学院生が専門書や論文を読んで発表し、教員や仲間が質問します。研究者自身も、こうしたセミナーで 1 行ずつ確かめる読み方を身につけてきました。

考える時間、伝える時間、育てる時間が組み合わさっています。

図解大学の数学の研究者の 1 日(例)

  1. 9:00論文のチェック新しく公開された論文を読む
  2. 10:40講義1 年生に線形代数を教える
  3. 12:10昼休み
  4. 13:00研究ノートに図を描き、証明を考える
  5. 15:00共同研究黒板の前で仲間と議論する
  6. 16:30セミナー大学院生の発表を聞いて質問する
  7. 18:00論文を書く分かったことを英語でまとめる

05

向いている人と、大学院・その先

数学の研究者になるには、大学院に進むのが一般的です。修士課程(多くは 2 年)では、専門の論文を読みこなせるようになることを目指します。博士課程(多くは 3 年)では、自分の新しい結果を論文にまとめ、博士の学位を目指します。

博士課程の学生が研究に打ち込めるよう、日本学術振興会の特別研究員(DC)という制度があります。採用されると、3 年間、月額 20 万〜23 万円(支給予定額)の研究奨励金を受けられます。博士の学位を取ったあとは、任期つきの研究員などで経験を積みながら、大学や研究所、企業の研究職を目指します。

1 つの問題を何日も考え続けられる人、分からない状態を楽しめる人に向いています。すぐに答えが出ない時間こそが研究です。証明できたときには、だれも見たことのない景色を最初に見る喜びがあります。

セミナーで専門書を 1 行ずつ読む経験が、研究の第一歩です。

図解数学の研究者への道(例)

  1. 1学部4 年のセミナーで専門書を読む
  2. 2修士課程多くは 2 年。論文を読み込む
  3. 3博士課程多くは 3 年。新しい結果を証明する
  4. 4研究員など任期つきで研究の経験を積む
  5. 5大学・研究所・企業研究を続け、次の世代を育てる

高校生のうちに試せること

  • 日本数学会の市民講演会を聞く

    日本数学会は、春と秋の学会に合わせて、高校生や一般の人向けのやさしい数学の講演会を開いています。入場は無料で、これまでの講演の動画や記録も公開されています。

    市民講演会(日本数学会)
  • 針を回す問題を紙の上で試す

    つまようじを紙の上で 1 回転させ、通った部分を鉛筆でなぞってみましょう。真ん中を中心に回したときと、端を中心に回したときで、なぞった形の面積を比べると、掛谷の問いの入り口に立てます。

  • 「算数・数学の自由研究」に応募する

    理数教育研究所が開く作品コンクールで、高校生の部もあります。身のまわりの数の不思議を自分で調べ、レポートにまとめて応募します。2026 年度は 8 月 20 日から 9 月 7 日まで作品を受け付けました。

    算数・数学の自由研究(理数教育研究所)

「研究者」に関連するコミュニティ

研究室・部活・サークルなど、全国の 44 件から探せます。

研究室をすべて見る(35 件)

よくある質問

数学の研究で、まだ新しく分かることは残っているのですか?

たくさん残っています。掛谷宗一の問いのように、100 年以上たってようやく答えが見えてきた問題もあれば、いまも答えの出ていない問題も数多くあります。新しい分野が生まれるたびに、新しい問いも生まれています。

博士課程に進むと、生活はどうなりますか?

日本学術振興会の特別研究員(DC)に採用されると、研究奨励金を受けながら研究に専念できます。授業の手伝い(ティーチング・アシスタント)や、大学独自の支援で収入を得る方法もあります。支援の内容は大学によって異なります。

研究者になれなかったら、どうなりますか?

大学院で身につけた、1 つの問題を深く考え抜く力は、ほかの仕事でも生かせます。博士の学位を持って、IT やデータ分析、金融などの企業で働く人もいます。