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図 1 機械工学の広がり機械工学の広がり 3

流れと熱

空気や水はどう流れ、熱はどう伝わり、どうすれば熱を仕事に変えられるのか。新幹線の形やエアコン、ジェットエンジンを支える、流体力学・熱力学・伝熱工学を学ぶ分野です。

風洞で煙の流れを観察する学生と、ゴルフボールや新幹線の模型、エアコンの室外機、ジェットエンジンの模型が並ぶ実験室

ひとことで言うと

川の水は、岩の後ろで渦を巻く

川の水は、岩の前ではなめらかに流れ、後ろでは渦を巻きます。空気も同じで、物の形しだいで流れ方が変わり、抵抗や騒音が生まれます。目に見えない空気や水、熱の動きを読み、乗り物や家電の形と働きを決めるのがこの分野です。

01

流体力学: ゴルフボールのくぼみの秘密

流体力学は、空気や水の流れと、それが物に及ぼす力を考える分野です。飛行機の翼、車の形、ポンプや送風機の羽根、血管の中の血液の流れまで対象になります。

ゴルフボールの表面には、ディンプルと呼ばれるくぼみがあります。ペンシルベニア州立大学の解説によると、昔のスコットランドのゴルファーは、意外なことに気づきました。傷だらけの古いボールのほうが、新品のつるつるのボールより遠くへ飛ぶのです。1905 年には、くぼみのあるボールが作られていました。

くぼみがあると、表面近くの空気の流れが細かく乱れ(乱流)、流れがボールの後ろ側まで沿いやすくなります。すると、後ろにできる圧力の低い渦の領域が小さくなり、空気抵抗が減ります。表面をわざとでこぼこにしたほうが遠くへ飛ぶという、直感とは逆の結果になるのです。

流れは目に見えないため、見えるようにする工夫も研究の一部です。1926 年、東京帝国大学の栖原豊太郎は、プロペラのまわりの流れなどを撮るため、1 秒に 2 万コマを撮れる高速度カメラを開発しました。このカメラは 2026 年に機械遺産(第 133 号)に認定されました。

形を少し変えるだけで、空気の流れと抵抗は大きく変わります。

図解つるつるの球と、くぼみのある球

つるつるの球

  • 表面の流れがなめらか
  • 早めに表面からはがれる
  • 後ろの渦が大きく、抵抗が大きい

くぼみのある球

  • 表面の流れが細かく乱れる
  • 後ろ側まで流れが沿う
  • 後ろの渦が小さく、抵抗が小さい
JAXA の低速風洞の内部。四角い大きな風の通り道と、模型を支える腕のような装置が見える
JAXA 調布航空宇宙センターの 6.5 m × 5.5 m 低速風洞(一般公開の日に撮影)。模型に風を当て、かかる力や流れ方を測ります。写真: Kestrel(CC BY-SA 4.0・Wikimedia Commons)

02

新幹線の先頭は、なぜ長いのか

新幹線が高速でトンネルに入ると、中の空気が押し縮められて圧力の波(圧縮波)ができます。この波は音の速さでトンネルを進み、反対側の出口から外へ飛び出します。これをトンネル微気圧波と呼びます。

微気圧波は、出口の近くで破裂するような音を出したり、家の窓や戸をがたつかせたりすることがあります。鉄道総合技術研究所によると、トンネル入口のフード(緩衝工)や、車両の先頭を細く長くして形を工夫するなどの対策が実用化されています。そのうえで、最高時速 320 km の営業運転が実現しています。

先頭を細く長くすると、トンネルに入るときに空気が押し縮められる勢いがゆるやかになり、圧力の波が弱まります。500 系は、日本で初めて時速 300 km で営業運転をした新幹線です。京都鉄道博物館によると、その鋭い先頭は、カワセミのくちばしの形をヒントにしています。

新幹線の形は、速さだけでなく、沿線の静かさも考えて決められています。

図解トンネル微気圧波が生まれるまで

  1. 1トンネルに入る先頭が中の空気を押し縮める
  2. 2圧縮波が進む音の速さで出口へ向かう
  3. 3出口で放たれる破裂するような音や窓のがたつき
  4. 4対策先頭を細く長くし、入口にフードを付ける
広島駅に入ってくる 500 系新幹線。細く長くとがった先頭が見える
広島駅に入る 500 系(2025 年撮影)。丸みのある車体と、長くとがった先頭をもっています。写真: Eric Salard(CC BY-SA 2.0・Wikimedia Commons)

03

熱力学: 熱を仕事に変える

熱力学は、熱と仕事(物を動かすエネルギー)の関係を考える分野です。自動車のエンジンも、火力発電所のタービンも、ジェットエンジンも、燃料を燃やした熱を、回転や推進力に変える機械です。

1824 年、フランスのサディ・カルノーは、熱を仕事に変える効率には、温度だけで決まる上限があることを示しました。上限は「1 − 低い温度 ÷ 高い温度」(温度は絶対温度)です。高温 600℃、低温 27℃ なら約 66% で、どんなに工夫しても、熱の 3 分の 1 以上は仕事にできません。

だから、燃やす温度を上げられる材料や、捨てる熱を再利用するしくみの研究が続いています。機械遺産(第 7 号)の FJR710 は、日本で初めての高バイパス比ターボファンエンジンです。航空宇宙技術研究所(現在の JAXA)と国内のメーカーが開発し、のちの国際共同開発のエンジンにつながりました。

熱の何割を仕事にできるかは、温度の差で決まります。

図解カルノーの上限を計算する

入力高温 600℃、低温 27℃ のあいだで動く熱機関
  1. 1絶対温度に直す: 600 + 273 = 873 K、27 + 273 = 300 K
  2. 21 − 300 ÷ 873 ≒ 0.66
  3. 3どんな機械でも、これより高い効率にはできない
結果効率の上限は約 66%。残りの熱は、外へ捨てるしかない
展示室に置かれた、内部が見えるように切ったジェットエンジンの模型。前に大きなファン、奥に何段もの羽根車が並ぶ
FJR710 の内部が見えるカットモデル(JAXA 調布航空宇宙センター)。前の大きなファンと、奥に並ぶ何段もの羽根車が見えます。写真: Kestrel(CC BY-SA 4.0・Wikimedia Commons)

04

伝熱とヒートポンプ: 熱を運び、逃がす

冬に鉄棒をさわると、同じ温度の木のベンチより冷たく感じます。金属が手の熱を速く奪うからです。熱が伝わる速さを考えるのが伝熱工学で、スマートフォンやパソコンの冷却、エンジンの冷却、建物の断熱に欠かせません。

エアコンは、熱を温度の低い所から高い所へ運ぶヒートポンプです。冷媒という物質を圧縮すると温度が上がり、膨らませると下がる性質を使い、冬は外の空気の熱を集めて部屋に運びます。ヒートポンプ・蓄熱センターによると、いまのヒートポンプは、1 の電気エネルギーで 3〜7 倍の熱エネルギーを生み出します。

電気ストーブは、1 の電気から 1 の熱しか作れません。熱を作るのではなく運ぶから、何倍もの熱を使えるのです。日本では 1931 年、全館の空調を備えた大阪の朝日ビルに国産のターボ冷凍機が置かれました。この冷凍機も、機械遺産(第 42 号)に認定されています。

クイズ流れと熱クイズ

本文を思い出しながら答えてください。

  1. Q1ゴルフボールの表面にくぼみ(ディンプル)があると、どうなる?

  2. Q2新幹線がトンネルに入ったとき、出口で破裂するような音が出ることがあります。この現象は?

  3. Q3いまのヒートポンプは、1 の電気エネルギーで、どれくらいの熱エネルギーを生み出す?

0 / 3 問に回答

高校生のうちに試せること

  • 2 枚の紙で流れを見る

    2 枚の紙を少しすき間をあけて垂らし、間に息を強く吹き込んでみましょう。紙は外に広がるでしょうか、近づくでしょうか。流れが速い所で圧力が下がる様子を、目で確かめられます。

  • エアコンの室外機の風を確かめる

    冷房中のエアコンの室外機の前に手をかざすと、温かい風が出ています。部屋の熱を外へ運び出している証拠です。暖房中は反対に冷たい風が出ます。回っているファンには指を近づけないでください。

  • JAXA 調布航空宇宙センターの展示室に行く

    東京都調布市の展示室には、機械遺産の FJR710 エンジンの内部が見えるカットモデルがあります。入館は無料です。開館日や予約の要否は、公式サイトで確かめてから出かけましょう。

    JAXA 調布航空宇宙センター

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よくある質問

流体力学や熱力学は難しいと聞きました。高校で何をしておけばよいですか?

物理の「気体の状態方程式」「熱と仕事」と、数学の微分積分が入口です。大学では、これらを使って流れや熱の動きを式で表します。風洞や熱機関の実験で実際の動きを確かめながら学ぶので、手を動かしながら理解できます。

流れのシミュレーションは、どんな仕事で使われていますか?

車や新幹線の形、エアコンやパソコンの冷却、発電所のタービン、建物の換気など、多くの製品の設計で使われています。コンピュータで流れを計算する方法は数値流体力学(CFD)と呼ばれ、試作の回数を減らすのに役立っています。