図 1 機械工学の広がり機械工学の広がり 5
応用: 乗り物・ロボット・医療
4 つの力学と設計・制御の力を合わせると、新幹線も、宇宙探査機も、体の中を調べる機械も作れます。機械工学の知識が、乗り物・ロボット・医療や福祉の機器でどう生きているかを見ていきます。

ひとことで言うと
オーケストラは、全員がそろって 1 つの曲になる
オーケストラでは、弦楽器・管楽器・打楽器がそれぞれの役目を果たし、そろって 1 つの曲になります。新幹線もロボットも同じで、強さ・動き・流れ・熱・制御の知識が 1 台の中でかみ合って、はじめて安全に、速く、思いどおりに動きます。

01
鉄道・自動車・飛行機: 速く、安全に、大勢を運ぶ
乗り物は、機械工学の 4 つの力学がすべて集まる場所です。車体は軽くて壊れない強さが要り、走れば揺れ、空気の抵抗を受け、エンジンやモーターは熱を出します。どれか 1 つが欠けても、速く安全には走れません。
1964 年 10 月に開業した東海道新幹線の 0 系は、当時の鉄道の限界とされた時速 210 km で走りました。京都鉄道博物館に保存されている 4 両は、1978 年に引退するまでに約 600 万 km を走っています。0 系は機械遺産(第 11 号)です。
同じ 1964 年の 10 月 12 日には、日本で開発された旅客機 YS-11 の量産 1 号機が初飛行しました。この機体は国の飛行検査機として 1998 年まで、2 万時間を超えて飛び続けました(機械遺産 第 13 号)。
その先の速さへの挑戦も続いています。2015 年 4 月 21 日、JR 東海の超電導リニアは、山梨リニア実験線で時速 603 kmを記録しました。「最も速い磁気浮上式鉄道」として、ギネス世界記録に認定されています。
乗り物は、機械工学のすべての力学が試される「総合問題」です。
図解1 台の車に集まる力学
- 材料の強さぶつかっても乗る人を守る車体
- 動きと振動路面の揺れを吸収するサスペンション
- 流れと熱空気抵抗の小さい形、エンジンの冷却
- 制御ブレーキやモーターを細かく調整


02
宇宙と深海: 人が行けない場所で働く機械
宇宙や深海では、壊れても修理に行けません。2014 年 12 月に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ2」は、小惑星リュウグウに降り立ちました。表面に人工のクレーターを作り、地下の砂まで採っています。
2020 年 12 月 6 日、はやぶさ2 のカプセルが地球に戻り、中には約 5.4 g の砂や石が入っていました。設計のときに目標にしていた 0.1 g の 50 倍以上です。はやぶさ2 はその後も飛び続け、2026 年 7 月には小惑星トリフネのそばを通って観測しました。
海では、深さ 10 m ごとに水圧がおよそ 1 気圧ずつ増えます。1981 年に完成した有人潜水調査船「しんかい2000」は、深さ 2,000 m まで潜れました。そこでは窓 1 cm² ごとに、約 200 kg の重さがのるのと同じ力がかかります。乗員 3 人が入る内径 2.2 m の耐圧殻が、この水圧から人を守りました。
極限の環境で働く機械は、「壊れないこと」の計算の積み重ねでできています。
図解深さ 2,000 m の水圧を計算する
- 110 m 潜るごとに、水圧は約 1 気圧増える
- 22,000 ÷ 10 = 約 200 気圧
- 31 気圧は、1 cm² に約 1 kg の重さがのる力


03
ロボット: 工場から広がった「動く機械」
工場で溶接や組み立て、運搬を行う産業用ロボットは、機械工学の成果がつまった機械です。国際ロボット連盟は 2025 年 7 月、日本は世界の産業用ロボットの 38% を生産する、最大の生産国だと発表しました。
1977 年、国内で初めての全電気式の産業用ロボット「モートマン-L10」が開発・販売されました。それまでの油圧ではなくモーターで関節を動かし、位置や速さを細かく制御できるようにしたロボットです。人の手作業からの置き換えが難しいとされた溶接で広く使われ、機械遺産(第 76 号)に認定されています。
ロボットの設計では、腕の長さと関節の数を決め、モーターと減速機を選び、重い物を持っても腕がたわまない強さを確かめます。大学のロボットの研究室では、人のそばで働くロボット、歩くロボット、災害の現場で動くロボットなどが研究されています。
ロボットは、力学・設計・制御のすべてを使う、機械工学の代表選手です。
図解ロボットの関節を動かすしくみ
油圧で動かす
- 油の圧力でシリンダーを押す
- 大きな力を出しやすい
モーターで動かす
- 電気でモーターを回す
- 位置や速さを細かく制御しやすい
- 保守や点検がしやすい

04
医療・福祉機器: 人の体を助ける機械
医療や福祉の現場にも、機械工学の知識が生きています。「患者の胃の中を写すカメラを作ってほしい」。東京大学の病院の医師から頼まれた技術者たちは、1950 年に試作機を作りました。細い管の先に小さなレンズと豆ランプを付け、手元のワイヤでフィルムを巻き上げるしくみです。
この胃カメラ(機械遺産 第 19 号)は内視鏡へと発展し、いまでは世界中の病院で検査や治療に使われています。細い管を体の中で曲げるしくみや、小さな部品を正確に作る技術は、機械工学そのものです。
心臓の働きを助ける補助人工心臓は、羽根車を回して血液を送るポンプで、流れの計算が欠かせません。羽根車を磁石の力で浮かせ、こすれる部分をなくして血液を傷めにくくした例もあります。人工関節、義足、車いす、介護を助けるロボットなど、人の体の動きを力学で考える研究も広がっています。
高校生のうちに試せること
学生フォーミュラの審査を調べる
大学などの学生チームが、自分たちで企画・設計・製作した小型のレーシングカーで競う大会です。走る速さだけでなく、車のコンセプトや設計、コストも審査されます。どんな車が評価されるのかを公式サイトで調べてみましょう。
自動車技術会「学生フォーミュラ 審査概要」鳥人間コンテストの機体を見比べる
琵琶湖で毎年夏に開かれ、2026 年で 48 回目を迎えた大会です。人力プロペラ機部門と滑空機部門があり、多くの大学チームが機体を手作りしています。翼の長さや重さを比べると、軽さと強さの両立の工夫が見えてきます。
鳥人間コンテスト(読売テレビ)京都鉄道博物館で 0 系と 500 系を見比べる
京都鉄道博物館には、機械遺産の 0 系新幹線や、先頭の長い 500 系新幹線が展示されています。丸い鼻の 0 系と、とがった 500 系の形の違いを、流れと熱の知識で説明できるか試してみましょう。
京都鉄道博物館
「応用: 乗り物・ロボット・医療」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 212 件から探せます。
沿岸海洋工学研究室
九州大学(福岡県)
土木工学・山城 賢 教授

花田研究室(宇宙機ダイナミクス分野)
九州大学(福岡県)
航空宇宙工学・花田 俊也 教授
輸送・環境システム流体
広島大学(広島県)
先進理工系科学研究科 輸送・環境システムプログラム・船舶海洋工学・陸田 秀実 教授
数値流体力学(CFD)、実験流体力学(EFD)、環境発電などを研究している。

桒原研究室
東北大学(宮城県)
工学研究科航空宇宙工学専攻・宇宙インフラ工学

海岸・海洋工学研究グループ
名古屋大学(愛知県)
土木工学・中村 友昭 准教授

高橋(聖)研究室
東北大学(宮城県)
工学研究科航空宇宙工学専攻・推進工学
よくある質問
乗り物やロボットの仕事に就くには、どの学科を選べばよいですか?
機械工学科のほか、航空宇宙工学科、機械システム工学科、ロボティクス学科などで学べます。多くの大学では 4 年生で研究室に入り、自動車・航空宇宙・ロボット・医療機器など、興味のある分野を深めます。研究室の分野は大学によって異なるので、各大学のサイトで確かめてください。
医療機器を作りたいのですが、医学部に行く必要はありますか?
医療機器の設計や開発には、機械工学を学んだ人が多く関わっています。医師や看護師と協力しながら、使う人の体や現場の困りごとを聞いて形にします。医用工学や生体工学の研究室を置く大学もあります。
出典
- 日本機械学会「機械遺産一覧」(第 11 号・第 13 号・第 19 号・第 76 号・第 87 号)
- 東海旅客鉄道「超電導リニア 603 km/h、ギネス世界記録に認定」(2015 年 6 月 26 日)
- JAXA 宇宙科学研究所「小惑星探査機『はやぶさ2』が採取した小惑星 Ryugu サンプルは約 5.4 グラム」(2020 年 12 月 18 日)
- JAXA 宇宙科学研究所「小惑星探査機『はやぶさ2』」
- International Federation of Robotics「Japan's Car Industry Has Highest Robot Installations in Five Years」(2025 年 7 月 15 日)







