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図 1 物理学の広がり物理学の広がり 3

物性物理

同じ炭素でも、ダイヤモンドは電気をほとんど通さず、鉛筆の芯の黒鉛はよく通します。たくさんの原子が集まったときに生まれる性質を調べ、半導体や超伝導、磁石などの新しい物質と技術につなげる分野です。

磁石の上に浮かぶ黒い円盤、青く光る LED、銀色の結晶の模型が並ぶ実験室で、白い冷気の立つ容器をのぞき込む学生たち

ひとことで言うと

1 人では出せない、合唱の響き

1 人ひとりの声は小さくても、大勢がそろって歌うと、ホールを満たす響きが生まれます。原子も、1 個では見られない性質を、たくさん集まったときに見せます。金属の光沢や磁石の力、電気抵抗がゼロになる超伝導も、その例です。

01

原子が集まると、新しい性質が生まれる

1 円玉は、純粋なアルミニウムでできていて、重さは 1 g です。この中に、アルミニウムの原子はいくつあるでしょうか。計算すると約 2.2 × 10²² 個、220 垓(がい)個にもなります。

物性物理学は、このように膨大な数の原子や電子が集まったときの性質を調べる分野です。1 個ずつの動きを全部追うことはできないので、統計力学と量子力学を使って、集団としてのふるまいを考えます。

同じ炭素の原子でも、並び方が違うダイヤモンドと黒鉛では、電気の通しやすさがまったく違います。原子の並び方と電子のふるまいの関係が分かると、ほしい性質をもつ物質を設計できるようになります。

原子 1 個ではなく、集まったときの性質を考えるのが物性物理です。

図解1 円玉の原子の数を数える

入力1 円玉 1 枚(アルミニウム 1 g)
  1. 1アルミニウム 27 g には、原子が約 6.02 × 10²³ 個ある
  2. 21 g なら 6.02 × 10²³ ÷ 27 を計算する
  3. 3≒ 2.2 × 10²² 個
結果1 円玉 1 枚に、約 220 垓個の原子が集まっている

02

半導体と青色 LED: 電気と光をあやつる

半導体は、電気をよく通す金属と、通さない絶縁体の中間の物質です。混ぜる物の量や電圧で、電気の流れを細かく制御できます。スマートフォンやパソコンの頭脳のチップには、半導体で電気の流れをオン・オフする小さなトランジスタが大量に並んでいます。トランジスタを生んだショックレーら 3 人は、1956 年にノーベル物理学賞を受けました。

半導体は光も出します。赤と緑の LED は早くからありましたが、青だけは 30 年ものあいだ、世界中の研究者や企業が作れずにいました。青がないと、白い光を作れません。

1990 年代の初め、名古屋大学の赤崎勇さんと天野浩さん、徳島県の日亜化学工業にいた中村修二さんが、明るい青色 LED を実現しました。3 人は 2014 年のノーベル物理学賞を受けています。ノーベル財団の発表時点で、LED の効率の記録は、電気 1 W あたり 300 ルーメンを超えていました。白熱電球の 16、蛍光灯の約 70 を大きく上回ります。

スマートフォンも LED 照明も、半導体の物理から生まれました。

図解明かりの効率と寿命(2014 年の発表時点)

白熱電球

  • 1 W あたり約 16 ルーメン
  • 寿命は約 1,000 時間

蛍光灯

  • 1 W あたり約 70 ルーメン
  • 寿命は約 1 万時間

LED(最高記録)

  • 1 W あたり 300 ルーメン超
  • 寿命は最大約 10 万時間
ガラスのドームの中に置かれた、三角形の部品と細い金属線でできた小さな装置
1947 年にアメリカのベル研究所で作られた、最初のトランジスタの複製。いまのチップでは、これと同じ働きをする部品が、目に見えないほど小さく作られています。写真: Mister rf(CC BY-SA 4.0・Wikimedia Commons)

03

超伝導: 電気抵抗がゼロになる不思議

ふつうの電線は、電気を流すと抵抗で熱が出て、エネルギーの一部がむだになります。ところが、ある種の金属をとても低い温度まで冷やすと、電気抵抗がぴったりゼロになります。これが超伝導です。1911 年、オランダのカメルリング・オネスが、液体ヘリウムで冷やした水銀で初めて見つけました。

超伝導のコイルには、一度流した電流が半永久的に流れ続け、軽くて強い電磁石になります。JR 東海の超電導リニアは、液体窒素と液体ヘリウムでマイナス 269℃に冷やした超電導磁石を車両にのせ、約 10 cm 浮いて走ります。CERN の加速器 LHC の磁石にも、超伝導が使われています。

日本からも大きな発見が生まれています。2008 年、東京工業大学の細野秀雄さんは、鉄を含む物質が超伝導になることを発表しました。鉄は磁石の性質が強く、超伝導とは相性が悪いと考えられていたため、世界を驚かせました。もともとは、新しい半導体を探す研究の途中での、思いがけない発見でした。

抵抗ゼロの電線は、強い磁石と、むだのない電気の道をつくります。

冷やされた白い台の上の円盤の上に、小さな黒い磁石が浮かんでいる
冷やして超伝導になった物質の上に、磁石が浮いている様子。超伝導体は磁場を中から押し出す性質(マイスナー効果)をもっています。写真: Mai-Linh Doan(CC BY-SA 3.0・Wikimedia Commons)

04

磁石とスピン: 世界最強の磁石は日本生まれ

磁石の力のもとは、電子がもつ小さな磁石の性質(スピン)です。鉄のように、たくさんの電子のスピンが同じ向きにそろう物質が、強い磁石になります。

1982 年、佐川眞人さんは、ネオジム・鉄・ホウ素を組み合わせた磁石の組成を発見し、使える材料に仕上げました。それまでの最強の磁石の約 2 倍の性能をもつネオジム磁石です。日本国際賞の解説によると、エアコンや冷蔵庫、洗濯機のモーターに広く使われています。ハイブリッド車や電気自動車のモーター、風力発電機、携帯電話のスピーカーにも欠かせません。小さく効率のよいモーターを作れるので、省エネルギーにも大きく役立っています。

磁石の性質は、データの記録にも欠かせません。ハードディスクは、小さな磁石の向きでデータを記録しています。その小さな磁気を読み取る技術のもとになった「巨大磁気抵抗効果」を見つけた 2 人は、2007 年のノーベル物理学賞を受けました。

クイズ物性物理クイズ

本文を思い出しながら答えてください。

  1. Q11 円玉(アルミニウム 1 g)の中の原子の数は、およそ?

  2. Q2青色 LED の発明が、白い LED 照明につながったのはなぜ?

  3. Q3鉄を含む超伝導体の発見が、世界を驚かせた理由は?

0 / 3 問に回答

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大学での学び方と、ものづくりへの道

多くの大学では、3 年で量子力学と統計力学を学んだあと、物性物理学や固体物理学の授業に進みます。結晶の中の電子のふるまいや、半導体・磁性・超伝導のしくみを学びます。実験の授業では、物質を冷やして電気抵抗を測ったり、X 線で原子の並び方を調べたりします。科目の名前や順番は大学によって異なります。

研究室のテーマはさまざまです。物質を極低温まで冷やす実験、強い磁場をかける実験、新しい物質を作る実験、性質をコンピュータで予言する理論などがあります。千葉県柏市の東京大学物性研究所のように、全国の研究者が装置を共同で使う拠点もあります。

物性物理は、企業の研究開発につながりやすい分野です。半導体・電池・センサー・磁石・ディスプレイなど、電機・素材・自動車のメーカーで、新しい材料や部品の開発に携わる道があります。

図解新しい物質が製品になるまで

  1. 1物質を作る原子の組み合わせや並び方を工夫する
  2. 2性質を測る冷やす・磁場をかける・光を当てる
  3. 3しくみを説明量子力学と統計力学で理由を考える
  4. 4製品に生かすLED・磁石・センサー・チップ

高校生のうちに試せること

  • ほかの物の原子や分子の数を計算する

    1 円玉と同じ方法で、身の回りの物でも計算してみましょう。たとえば水 18 g(大さじ 1 杯と少し)には、水の分子が約 6.0 × 10²³ 個あります。数の大きさを、ほかの数と比べてみると実感がわきます。

  • LED 電球と白熱電球の効率を比べる

    家や店で、LED 電球と白熱電球のパッケージに書かれた消費電力(W)と明るさ(ルーメン)を見比べ、1 W あたりの明るさを計算しましょう。同じ明るさで、電気がどれだけ少なくて済むかが分かります。

  • 東京大学物性研究所の一般公開に行く

    千葉県柏市の物性研究所では、研究室や実験施設を公開する一般公開を開いています(2026 年は 10 月 23・24 日)。強い磁場を作る施設やレーザーの実験を、研究者や大学院生の説明つきで見られます。日程は公式サイトで確かめましょう。

    東京大学物性研究所「一般公開」

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よくある質問

物性物理と、化学や材料工学の違いは?

物質を扱う点は共通です。物性物理は、電子や原子の動きから「なぜその性質になるのか」を量子力学や統計力学で説明することを重視します。化学は物質を作る反応を、材料工学は使える材料に仕上げることを重視すると説明されることが多く、境目の研究も盛んです。

物性物理の発見は、すぐ製品になりますか?

長い年月がかかることが多くあります。青色 LED は 30 年におよぶ挑戦のあと 1990 年代に実現し、いまでは照明やディスプレイに広く使われています。ネオジム磁石も、発見のあと、熱に強く、さびにくい材料にする工夫を重ねて広まりました。