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図 1 物理学の広がり物理学の広がり 4

光・量子

光は波なのか、粒なのか。原子 1 個や電子 1 個のふるまいを調べ、その不思議な性質を、レーザーや超高精度の時計、量子コンピュータにつなげる分野です。

緑や青のレーザー光が鏡とレンズの間を走る光学台を囲み、銀色の冷却装置や原子の模型を前に話し合う学生たち

ひとことで言うと

回っているコインは、表でも裏でもない

机の上で回っているコインは、止まるまで表か裏か決まっていない、と考えてみてください。量子の世界の粒は、測るまで状態が 1 つに決まらず、いくつもの状態を重ね合わせたようにふるまいます。この不思議な性質を、測る技術や計算に生かすのがこの分野です。

01

電子は波か粒か: 二重スリットの実験

光や電子は、ある時は粒のように、ある時は波のようにふるまいます。このふしぎな性質を説明するのが量子力学で、半導体やレーザー、LED など、いまの電子機器の多くを支えています。

1989 年、日立製作所の外村彰さんらは、電子を 1 個ずつ飛ばし、細い電極の両側を通らせる実験を行いました。電子は画面に 1 個ずつ、点として届きます。ところが 20 分ほど続けると、点が積み重なって、波が重なったときにだけできる縞模様(干渉縞)が現れました。

電子は 1 秒に 10 個ほどしか飛ばしていないので、装置の中にはいつも 1 個しかありません。それでも縞ができるのは、1 個の電子が波として両側を同時に通り、重なり合ったと考えるしかないのです。

量子の世界では、1 個の粒も波としてふるまいます。

図解電子を 1 個ずつ飛ばすと

  1. 11 個ずつ発射装置の中の電子はいつも 1 個だけ
  2. 2点として届く最初は、ばらばらの位置に点が出る
  3. 3点が積もる少しずつ縞らしき模様が見えてくる
  4. 4約 20 分後はっきりした干渉縞が現れる

02

レーザー: そろった光が社会を変えた

レーザーは、波の山と谷がきれいにそろった光です。1960 年、アメリカのメイマンがルビーの結晶を使って初めて光らせました。原子が光を出すしくみを、量子力学で考えて生まれた技術です。

いまでは、光ファイバーでデータを送る通信、金属の切断や溶接、医療、距離の精密な測定など、多くの場面で使われています。インターネットの動画が届くのも、レーザーの光のおかげです。

2018 年のノーベル物理学賞は、レーザーの光で小さな粒をつかむ光ピンセットと、ごく短く強い光のパルスを作る方法に贈られました。光ピンセットは生きた細菌を傷つけずにつかめ、短いパルスのレーザーは、毎年何百万件も行われる視力矯正の手術に使われています。

図解身のまわりのレーザー

レーザー
  • 通信光ファイバーでデータを送る
  • ものづくり金属を切る・溶接する
  • 医療視力矯正の手術
  • 研究光ピンセットで細胞をつかむ
暗い実験室の光学台の上に、鏡やレンズの部品が並び、緑や紫の光に照らされている
イタリアの国立計量研究所(INRIM)の光学実験室。ごく短い光のパルスを出すレーザーと、鏡やレンズを、穴の並んだ光学台の上に組んでいます。写真: Giorgio Brida(CC BY 2.0・Wikimedia Commons)

03

光格子時計: 300 億年で 1 秒も狂わない

時間の基準を決めるのも、光と原子の物理です。いまの 1 秒の基準になっているセシウム原子時計は、3,000 万年に 1 秒も狂いません。東京大学の香取秀俊さんは 2001 年に、光格子時計を提案しました。目指したのは、それより 3 けた正確な、300 億年に 1 秒も狂わない時計です。

レーザー光を重ねて、卵のパックのような「原子の入れ物」を作り、極低温に冷やした原子を 1 つずつ入れて、まとめて測るしくみです。2020 年、理化学研究所と東京大学などのチームは、持ち運べる 18 けた精度の光格子時計を作りました。その 2 台を、東京スカイツリーの地上階と、地上 450 m の展望台に置いたのです。

すると、高い所の時計のほうが速く進むことを測れました。重力が弱い所ほど時間が速く進むという、一般相対性理論の予言どおりです。数 cm の高さの違いで生じる時間の差も分かるため、将来は、火山活動などによる地面の上下の動きを見張る使い方も期待されています。

時計の精度を上げると、高さや重力の違いまで測れるようになります。

図解450 m 上の時計は、どれだけ速く進む?

入力地上と、高さ 450 m の展望台に置いた 2 台の時計
  1. 1進み方の差の割合 ≒ 重力加速度 × 高さ ÷ 光の速さの 2 乗
  2. 29.8 × 450 ÷ (3 × 10⁸)² ≒ 4.9 × 10⁻¹⁴
  3. 31 日(86,400 秒)分では ≒ 4.2 × 10⁻⁹ 秒
結果展望台の時計は、1 日に約 10 億分の 4 秒速く進む
金属の装置の丸い窓の奥で、青紫色の光が小さく輝いている
アメリカの研究所 JILA のストロンチウム光格子時計。真空の容器の窓の奥で、レーザーで冷やした原子の集まりが光っています。写真: Brad Baxley(Public domain・Wikimedia Commons)

04

量子コンピュータ: 0 と 1 を重ね合わせて計算する

ふつうのコンピュータは、0 か 1 のどちらかを表すビットで計算します。量子コンピュータの量子ビットは、0 と 1 を重ね合わせた状態をとれます。この性質と、離れた粒どうしが結びつく「量子もつれ」を使い、特定の問題をとても速く解けると期待されています。

1999 年、NEC にいた中村泰信さんらは、超伝導の回路で量子の重ね合わせを制御することに、固体の素子として世界で初めて成功しました。2 年後、理化学研究所でこの研究のチームが生まれます。その母体のグループを率いたのは、二重スリットの実験の外村彰さんでした。

理化学研究所は 2023 年 3 月、国産初号機となる 64 量子ビットの超伝導量子コンピュータを公開しました。2025 年 4 月には、富士通と 256 量子ビットの機械を発表しています。超伝導の量子ビットは熱に弱いため、希釈冷凍機で約マイナス 273.13℃まで冷やして動かします。2025 年のノーベル物理学賞は、超伝導の回路で量子の性質が現れることを 1984〜85 年の実験で示した 3 人に贈られています。

量子コンピュータは、物理の実験装置そのものです。

図解ビットと量子ビット

ビット

  • 0 か 1 のどちらか
  • 電圧の高い・低いで表す
  • 室温で動く

量子ビット

  • 0 と 1 を重ね合わせられる
  • 量子もつれで結びつく
  • 極低温などで守って動かす

05

大学での学び方と、光と量子の仕事

多くの大学では、2・3 年で量子力学を学び、そのあと量子光学、原子物理学、量子情報などの専門の授業に進みます。実験の授業では、レーザーやレンズ、鏡を光学台に並べ、光の干渉を自分の手で確かめます。科目の名前は大学によって異なります。

研究室のテーマは幅広くあります。原子をレーザーで冷やして止める実験、光の粒を数える実験、量子ビットを動かす実験、新しい計算方法を考える理論などです。

光と量子の技術は、カメラやセンサー、光通信、医療機器、半導体の製造装置などの産業を支えています。量子コンピュータの開発には、物理を学んだ人だけでなく、プログラムを書く人や回路を設計する人も加わっています。

クイズ光・量子クイズ

本文を思い出しながら答えてください。

  1. Q1電子を 1 個ずつ二重スリットに飛ばし続けると、最後に画面に現れるのは?

  2. Q2東京スカイツリーの展望台(地上 450 m)に置いた時計は、地上の時計と比べてどうなった?

  3. Q3超伝導の量子コンピュータは、どれくらいの温度で動かす?

0 / 3 問に回答

高校生のうちに試せること

  • CD や DVD で光を虹色に分ける

    使わなくなった CD や DVD の裏面に光を当てると、虹色に見えます。表面の細かい溝で、光の波が重なり合っているためです。蛍光灯、LED 電球、スマートフォンのライトで、色の並び方の違いを比べましょう。太陽を直接見ないでください。

  • Quirk で量子回路を動かす

    ブラウザで動く無料の量子回路シミュレーター Quirk では、量子ビットに操作を並べて、重ね合わせや量子もつれの様子をグラフで確かめられます。登録は不要で、英語の画面ですが、ドラッグで部品を置くだけで試せます。

    Quirk
  • 物理チャレンジに挑戦する

    物理オリンピック日本委員会の物理チャレンジは、20 歳未満で大学などに入る前の人が参加できる全国規模のコンテストです。実験の課題と理論の問題に取り組みます。

    物理オリンピック日本委員会

「光・量子」に関連するコミュニティ

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よくある質問

量子コンピュータを学ぶには、物理と情報のどちらの学科がよいですか?

どちらからでも関われます。量子ビットという装置そのものを作るなら、物理学科や応用物理学科で量子力学と実験を学ぶのが近道です。量子コンピュータで動かす計算方法やソフトウェアは、情報系の学科でも学べます。研究室の一覧で「量子」が付く研究室を探してみてください。

量子力学は、高校の物理とどうつながっていますか?

高校の物理の最後に学ぶ原子の分野(光電効果や電子の波の性質など)が入口です。大学では、これを微分方程式で表したシュレーディンガー方程式を使い、原子の中の電子のふるまいを計算します。